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寒い時には香霖堂へ

あけましてひと月経ちましたおめでとうございます。
新年1発目でおめでたいということで、書いたことが無かった霊霖を。

2年ほど前に道草さんが
「炭が切れたと言って香霖堂でコタツムリと化す霊夢。
 よくコタツでうたた寝してその都度霖之助にお姫様だっこで寝床まで運ばれるのだが、
 霖之助が寝てる時は当然コタツに炭は入ってないので霊夢は霖之助の布団に」
と仰っていたので、そこからちょちょいと作らせて頂きました。道草さんありがとうございます。

霊夢は積極的というか、「一緒に居るのが普通」みたいな体で霖之助と居ますよね。もはや熟年夫婦。
デレるのは一瞬とかだと凄く好きです。クーデレでは無いと思いますが、何と言えば良いんでしょうか。



登場人物

森近霖之助 博麗霊夢 金髪の子
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 寒さも本格的になってきた冬の幻想郷。
 季節柄、氷精や冬の妖怪が活気付き、外は見事な冬景色に仕上がっていた。
 雪を降らせて吹雪かせて。結果、幻想郷は例年と変わらず底冷えな日々が続いている。
 人間は妖怪とは違い、寒暖の変化には非常に弱い。そのため人間はみな、冬は防寒を重点とした生活をしている。
 自身の弱点を知り得るからこそ身を守る知恵を身につけ、今も存在する人間という生き物は、実に狡猾ながらも逞しい生命だろう。
 そして、その人間の体を半分受け継いでいる霖之助もまた、寒さを凌ぐために様々な手段を駆使して今を過ごしていた。


「……」


 一枚、また一枚と、カウンターの椅子に座った霖之助は、黙々とページを捲り本を読み進める。
 そんな彼の動きは自然そのもので、寒そうな様子など微塵も見られない。

 底冷えの幻想郷にある香霖堂の店内は、冬であるのにも関わらずどこも暖かい。
 その理由は、幻想郷では使えない筈であるストーブという外の世界の道具を、大妖怪との取引の末に使用可能となったからである。
 そしてそれを補佐するかのように店内に鎮座しているのが、掘り炬燵という少し特殊な炬燵だ。
 掘り炬燵とは、床の一部を数尺ほど下げて段を作り、その一番下げた窪みに火鉢などの暖房器具を置くことで、座って寛ぎながらも暖をとることが出来るようにしたものである。
 ストーブという幻想郷にはない先進技術と、知恵の結晶である掘り炬燵。手にするまでに紆余曲折はあったものの、無事に手にした素晴らしい道具のおかげで、霖之助の冬の生活は安泰しているのである。


「あー……あったかいわ。天国だわー」


 そんな霖之助の手に入れた暖の中で、だらけきった少女の声が一つ。
 暖かい、と言葉を発したのは、妖怪退治に定評があるらしい博麗神社の巫女、博麗霊夢である。
 彼女は今、さも当然かのように香霖堂の掘り炬燵の中に体の半身を入れ、炬燵のすぐ側に置いてある座布団の上で猫のように丸くなっていた。
 霖之助が半身も体を入れれば、体を曲げても火鉢に足が当たって火傷をするだろう。ああいった芸当が出来るのは、小柄な霊夢だからである。
 霖之助はじとっとした視線を彼女に投げかけ、呆れつつ声をかける。


「……前から言っているんだが、ここは君の家でも休憩所でもないんだがね」
「んー? いや、仕方ないじゃない、うちの炭が切れちゃったんだものー」


 首だけを動かし霖之助を見た霊夢が、間延びした声で話し終えると同時に、逆再生するかのように元の体勢へと戻った。
 霊夢の言う「炭が切れた」というのは、要するに掘り炬燵の熱源が無くなったということだ。
 一応、火鉢が無くとも炬燵に掛かった布団によって寒さを凌げるが、それは些細な抵抗に過ぎないだろう。掘り炬燵は地面を掘り下げているが故に空間が広く、人の体温だけでは早々暖かくなることはない。
 つまり霊夢の主張は、「自分の家で暖まることが出来なくなったため、香霖堂へ暖を取りに来た」ということである。
 実に簡単で明白な回答。しかしその答えは、会話の返答としては全く正しくはない。


「答えになっていないよ。言葉のキャッチボールをしてくれないか?」
「んもー、別に絶対ここに居てはいけないって話じゃないでしょ?」


 今度は体勢はそのままにして霊夢が喋る。最早動くこと自体が億劫になったのだろう。
 それに加え、何故少し不機嫌な口調になっているのだろうか。


「いつも言っているだろう、お客以外は御免なんだがね」
「魔理沙だって、しょっちゅうここに来ては寛いでるじゃない。それと同じよ?」
「彼女にも同じ事を言ってるよ、聞く耳持ってくれないだけだ」
「ふぅん、じゃあ私も聞く耳持たずということで」


 言うと霊夢は、炬燵の上にあったみかんを手に取って剥き始めた。それも香霖堂の物なのだが……言っても無駄だろう、あっという間に皮をむいて頬張り始めた。あのみかんはツケに追加しておこう。
 ああ言えばこう言う。どうもここに訪れる者たちは、口から生まれてきたんじゃないかと思うほどよく口が回る。
 馬の耳に念仏。これはもう彼女が満足するまで放っておいた方がいいだろうか。実際、営業自体に被害は及んでいない。彼女はツケを溜めに溜めまくっているだけではあるのだ。
 そう思った霖之助は、彼女に気づかれないように小さくため息を吐き、続きを読むべく本に目を落とした。







「ふむ、中々面白い本だった……ん?」


 それから数刻。
 一冊を最後まで読み終え、一息吐いた霖之助が持った本を閉じようとしたとき、規則正しい息づかいが霖之助の耳へと届いた。
 息づかいの元は、掘り炬燵の方向だ。


「……はぁ」


 掘り炬燵の方を見た霖之助は、飽き飽きするかのように肩を落とす。
 そこには、掘り炬燵に潜ったまま眠りこける巫女――博麗霊夢の姿があった。
 またこれか、と霖之助は頬を掻く。霖之助が霊夢に忠告しているのは去れと言う意味が大きいが、この状況を避けたいが為でもある。
 ただ居座って去るのなら、まだ被害はみかんやお茶だけで済む。しかし、こうして眠りこけられてしまうと、非常に困るのだ。


「霊夢、起きるんだ。炬燵で寝るんじゃあないよ」
「ん、んー……」


 霖之助が霊夢の頬を軽く叩くも、彼女は目覚めもせず、炬燵からは出る気配もない。

 炬燵で寝ると、人間は風邪を引きやすい。それは昔からずっと言われている。
 もしも霊夢が風邪を引いたらどうなるか。答えは至ってシンプルで、香霖堂に来て風邪薬をせびるのだ。しかも、効能が良いと言われる外の世界の薬をである。
 みかんやお茶などの食品に次いで外の世界の風邪薬まで奪われるのは、ツケにするから良いという物ではない。外の世界の薬品は、香霖堂にとっては非売品なのだ。
 そうすると、彼女のツケは数倍に膨らむ。只でさえも返して貰えなさそうなツケであるのに、わざわざ放っておいて風邪を引かせて風邪薬を奪われるような事は、霖之助にとっては避けたい事だった。

 そのため、霖之助はどうするのか。それは、分かりきった事でもある。
 霖之助は自身の住居のある店の奥へと向かい――数十分後、再び店内へと戻ってきた。


「やれやれ。よっと」


 そして、霖之助はゆっくりと炬燵に埋もれている霊夢を抜き出すと……ひょいと彼女の体勢を動かして、お姫様だっこをする形をとった。
 そのまま、起こさぬよう揺れが伝わらないよう、慎重に霊夢を運ぶ。霊夢は軽いため、運ぶことは霖之助にとって何て事は無い。それが幸いなのかは甚だ疑問であるのだが。 
 霖之助が霊夢を運ぶ先は、店の奥にある自身の住居の寝床だ。先程数十分ほど席を外していたのは、寝床を用意し、部屋や布団の冷たさで霊夢が目覚めないように寝床全体を温めていたのである。
 ハッキリといってしまうと、寝起きの霊夢は非常に不機嫌になる。何が起こるか分からない為、霖之助は被害を抑えるべく、霊夢が眠ってしまうとわざわざこうして寝床を準備しているのだ。

 そして今回も、無事に霊夢を起こすことなく寝床へと運び終え……一仕事を終えた。


「……終わった。今回も、助かったか」


 額に少しにじんだ汗を拭って、霖之助は安堵のため息を吐く。霊夢や魔理沙が絡むとどうもため息が多くなって悲しくなるが、吐いてしまうのは自然な事なので仕方ない。
 兎にも角にも、これで霖之助は風邪薬もその他の災害も被ることは無くなったというわけだ。平和で何よりである。
 平穏を取り戻した霖之助は、また新しい本を読もうと寝床の明かりを消し、店の奥から店内へと向かっていった。

 炬燵で寛ぐ霊夢を注意するも、結局居座られて眠りこけられる。その霊夢を霖之助が寝床へ運び、後に起きた霊夢が軽く礼を告げ、帰っていく。
 そんなやり取りを度々繰り返しながら、香霖堂の冬は流れていた。















 信じられない事が起こった。
 信じたくもない事が起こった。
 信じろと言われたら首を左右に振りたくなる事が起こった。


「……何だ、これは」


 霖之助は、今自分が置かれている状況を信じたくなかった。
 しかし、頬をつねってみると、痛い。痛覚が働いている、つまりは現実と言うことだ。
 霖之助は小さく深呼吸をし、慌てつつある気を落ち着かせ、考える。するべきは、状況整理だと。

 まず、今はいつ頃なのか。
 それは分かりきっている。窓から射している太陽の日差しの向き、外から聞こえる鳥の囀り。
 この風景と音は何度も目にし、耳にしている。
 今は、紛れもなく朝だということだ。

 次に、自身が何をしているのか。
 それも分かりきっている。昨晩の記憶はしっかりと残っているのだ。
 本を夜遅くまで読んでいて一段落が付いたため、店の戸締まりをして寝床へと向かって布団に潜り、眠った。
 霖之助は今、眠りから目覚め、起床する直前だったのだ。

 ここまでは、どこもなにもどうやってもおかしくない。いつもの生活パターン、いつもの日常。
 だというのに、この状況は何だ。


「すぴー……」


 ――どうして、霊夢が一緒の布団の中で眠っているのか?

 枕の近くに置いておいた眼鏡を掛けて再び見るも、変わらない。霊夢が、霖之助の布団の中にいる。これは一体どういうことか。あまりにも脈絡がなさ過ぎる。
 霖之助の記憶では、昨日霊夢は香霖堂へと来たが、特に突出する事もせず普通に帰っていった。その後霖之助は、一人戸締まりをして、一人布団に入り眠った。
 しかし、そんな霖之助の記憶も虚しく、現実はここに霊夢がいると言うことを霖之助に伝えている。
 ということはつまりこの謎を解明するには、霖之助の左腕を両腕で抱き枕代わりにして眠りこける、目の前の少女に問いたださなくてはいけないだろう。


「霊夢。起きてくれ、霊夢」


 急かされるような気持ちを抑えつつ、霖之助が霊夢の肩を揺さぶる。
 揺らすこと十数秒。事の張本人がようやく目を覚ました。


「んむ、んぁ? なによ、人がせっかく気持ちよく寝てんのに……あ、おはよ霖之助さん」
「……」


 見上げるように霖之助を見て、慌てることもなく挨拶をする霊夢。そんな彼女を見て、霖之助は確信した。
 このような異質な状況。いくら博麗の巫女である彼女でも、いきなりのこの事態には何らかの反応を示すはずだ。
 それなのに、このリアクションの無さ……このことから考えるに、確実にこの状況は霊夢が作ったものなのだろう。


「ああ、おはよう。起きてばかりで悪いんだが、君に説明してもらいたいことがあってね」
「んー? 何よ?」
「何故君が、僕の布団の中にいるんだ?」


 そう霖之助が理由を問うと、霊夢は眠気眼を擦りながら口を開いた。


「何でって……昨日、うちの炬燵の炭がまた無くなってね。今日は一段と冷えてるから、あったまろうと早めにここへ来たの」
「その発想の前に、炭を買おうという考えを挟んで欲しかったんだがね。そもそも、どうやって鍵を」
「でも、信じられないことに炬燵が点いてなかったの! どうなってるのよ?」


 霖之助が聞こうとするも、霊夢は霖之助の言葉を気にもせずに話を続ける。
 ……その問いには答えるつもりが無いのだろう。


「僕が入らないのだから、点いていなくて当然じゃないか?」
「炬燵は点いてないストーブも点いてないで、店内はそれなりに広いから私、死ぬほど寒かったのよ?」
「まだ開店時間でも無いのに押しかけた君の責任だと思うんだが」
「そしたら一つ、思い出した事があって」
「?」
「ほら、霖之助さんって、私が炬燵で寝てたらここに運んでくれるじゃない? だから」
「……だから?」
「だから、いつも通り、ここで寝ても良いんじゃないかと思って」


 いや、その理屈はおかしい。
 そう声を出したかった霖之助だが、堪えた。突っ込みを入れている場合ではない。突っ込むところはそこではない。


「いや、待ってくれ。そもそも君を布団に運ぶ理由は、風邪を引かれると薬代を何故か僕が払う目になるからだ。決して君をここに寝させるためじゃない」
「だって霖之助さん看病してくれるんだもん……それじゃあ、風邪とか関係なかったら、ここで寝ちゃ駄目なの?」
「一言断ってくれたのなら僕だって考えるさ。断りも入れずに寝ようとするのは非常識だと思うね」
「……あ、ほら、私は入って良いか聞こうと思ったのよ。でも今回は、霖之助さん寝ちゃってて聞けなくて、ね?」


 布団に深く潜り霖之助の片腕に抱きついているからか、上目遣いの形になって霊夢が霖之助を見る。
 そんな、たった今思いついたかのような言い訳が、通るはずないだろうに。


「口が良く回るのには関心するが、支離滅裂になっているよ」
「む、駄目だった」
「駄目も何も、寝る寝ないの話ではなくて、僕の布団に潜り込むこと自体がおかしい。寝るのであるならば、布団がまだいくつか押し入れに入ってるだろう?」
「布団って、あったまるまで凄く冷たいじゃない。直ぐにあったまりたいのに、わざわざ冷たい布団敷いて中に入るなんて御免よ。で、このままじゃ凍死しちゃうわーって思ってたら、ちょうどあったかい布団で寝ている霖之助さんが目に入ってね」
「……つまり君は、そんな理由で僕の布団の中に潜り込んだと」
「うん」


 当然、と言わんばかりに霊夢が頷いた。何かおかしかった? という目もしている。
 そこはかとなく頭痛を感じ、霖之助は頭を抱えた。
 ああ、駄目だ。この子は何が間違っているのかを理解していない。
 暖簾に腕押し、糠に釘。霊夢を相手にすると、何をしても駄目だという類の諺がよく似合う気がした。


「……はぁ、分かった。もう過ぎたこと、今更言っても手遅れだ。万歩譲って君が潜り込んできたことは良いとしよう」
「わぁ、とんでもない譲歩ね。ま、それはよかったわ」
「だが、僕は目覚めていて、もう起きるんだ。……分かるだろう?」
「……むぅ」


 気付いて欲しいが為に霖之助が発した言葉。それは、どうやら霊夢には逆に作用したようだった。
 数秒霊夢は停止していたかと思うと急に動き出し、霖之助がしたかった行動は阻害される。


「それは止めて欲しいわね」
「それは僕が言いたいセリフだ。とにかく」
「や」
「君が抱きかかえている僕の腕を、解放してくれないか?」


 霖之助の言葉に対し、抵抗のつもりなのか霊夢が力を込める。
 それにより、更に霖之助は動きづらく、起きづらくなってしまった。


「嫌って言ってるじゃない! 霖之助さんあったかいんだもん、離したくないのは当然でしょう!?」
「なんで逆ギレされなくちゃいけないんだ。どう見てもどう考えても、非は君にあるだろう?」
「むぐぐ……でも、私はこうしていたいの! 霖之助さんは、私と一緒に居るのが嫌なの?」
「は? それは……」


 状況にあまりそぐわない内容であれど、不意を突くような質問に、霖之助は少し考え込んだ。
 霊夢が言っていることは、この暖かい空間から出たくない一心から出た言葉なのだろう。
 しかし、ここでその言葉を否定することは、また違う意味を表すのではないか、と霖之助は思った。思ってしまった。


「……そんなわけないだろう。だとしたら、この店自体に来ること自体、認めていない」
「そう? なら、こうしていても何も問題はないわよね? そうよね?」
「ただ、時と場合は考えて欲しいね。今はその時でも場合でもないことは分かるだろう?」
「私にとっては、丁度その時と場合が完全に一致してるのよ。さてと、話も纏まったことだし……もっとゆっくりしましょ?」


 よしきた、と言わんばかりに霊夢が霖之助の腕と共に布団の中へと勢いよく潜る。
 当然、本体の霖之助も引き込まれ、起きようとしていた体勢から再び布団の中へと帰る事になってしまった。
 無論、霖之助はそんなことを認めるはずもない。


「待つんだ、話は何も纏まっていない。僕の意見が何一つ採用されていないじゃないか」
「時と場合の部分が無事に採用されたわよ?」
「それは意見を言うまでの過程だ。僕の言いたい意見でも何でも無い」
「あぁもう、めんどくさいわね。私はこうしていたいから、霖之助さんには是非とも折れて貰いたいのだけど」
「だから今、こうやって君を説得しているんじゃないか。
 僕が出て行っても、布団は霊夢の望む温かさを持っている。君の気が済むまで入っていて構わないよ」
「うぐっ、それは……」


 霖之助の言葉に痛いところを突かれたのか、霊夢が眉を顰め俯いた。
 そう、いくら霖之助が温かいと言えども、布団は霖之助と霊夢の体温で十分に温まっていたのである。
 この温かさでなら、もし霖之助が出て行こうとも、霊夢は残った温もりでゆっくりと眠ることが出来るだろう。


「……ああ、もう。しょうがないわね。分かった、分かったわよ」


 すると、俯き考える素振りをしていた霊夢が小さくそう呟くと、ジト目になりつつ霖之助を見上げた。
 ようやく折れてくれたか、と心の中で安心する霖之助だったが。


「やっと分かってくれたかい。それじゃあ」
「最後にホントのこと言う。それでどうするか考えて欲しいんだけど」
「む?」


 思いもしなかった提案をされ、首を傾げることになった。


「本当のこと? 布団に居たいという事じゃないのかい?」
「それも半分くらいあるけど、違うの。半分の理由じゃ駄目なら、もう半分も言うしかないでしょ?」
「……まぁ理由があるのなら聞こうじゃないか、その半分はなんなんだい?」
「それは……」


 その半分の理由を聞くために、霖之助は霊夢に問い質す。
 霖之助は霊夢にそれ以外の理由があるとは思ってなく、仮にあったとしても先程のように霊夢が即席で考えた物で、意味はないのだろうと思っていた。
 そして、もしも彼女の提案に穴があれば、すぐさまその部分を指摘するつもりでもあった。
 しかし―― 


「――行かないで欲しいのよ。たぶん、寂しいのよ」
「……なんだって?」


 霖之助の思惑は、全くもって大外れだった。


「こうしていると、なんか、凄く安心するのよ。ああ、一緒に居るんだなーって思えるからかしんないけど。
 でも、霖之助さんが出て行くって聞いて、居なくなった後のことを考えたら、なんか嫌なの。なんか、良く分かんないけど、寂しいんだと思う」
「思うって……君のことは君にしか分からないだろう?」
「もやもやしてて、私にも分かんないのよ。ただ、ここから霖之助さんがいなくなるのが嫌なんだっていうのは分かるの。それだけは分かるの」
「……なるほど」
「ほら、半分の理由、言ったわよ霖之助さん。で、どうするの?」


 話し終えた霊夢は、分からない部分があるからか、不安そうな表情をしている。
 その顔から見るに、嘘を吐いていないのは誰でも分かるだろう。


「……」


 予測出来なかった回答に戸惑いつつも、霖之助は考える。
 よく霊夢は感情を露わにするが、こうして心境を話すことはあまりにも珍しい。珍しすぎた。
 元の動機は我欲に従っていれども、こうした霊夢を見るのは霖之助にとっても初めてのことだったのである。


「出て行くの? 居てくれるの?」


 そして、霊夢の話したその理由は。


「……分かった、分かったよ。居るさ、君が満足するまで居れば良いんだろう?」


 霖之助にとって断れない、納得できてしまうものだったのである。言ってしまえば、断るための理由が浮かばなかったのだ。
 霊夢と似た言葉と共に、霖之助は仕方なく頷く。


「そっか……ありがと」
「!」


 すると、霊夢が一瞬だけ、安心しきった笑顔を見せた。
 その表情は、普段の彼女からは決してお目にかかれないような、年相応の少女の笑顔。
 そんな霊夢の表情に霖之助が驚いていると、


「よし、そうと決まれば霖之助さん。早速二度寝に洒落込みましょ?」


 そう言って霊夢が、抱えていた霖之助の左腕を離し、うつぶせの形で覆い被さるよう霖之助の上に乗りかかる。
 霖之助が布団に留まると決まったので、腕を抱える必要が無いと思ったのだろう。
 あっという間に敷き布団のようにされた霖之助は、自身の体に被さった霊夢を見てため息を吐いた。


「……切り替えが早いことで」
「ふふー、最高よね、二度寝。人類の行き着いた楽園だと思うわ」
「随分と身近にある楽園だね」
「そうよ、すぐ側にある幸せなの。そんなの、手に入れずにはいられないでしょ?」


 霖之助の胸板を枕に寝そべる霊夢が、したり顔で霖之助を見上げる。
 その表情は、霖之助が普段見ている通り。いつもの博麗霊夢へと戻っていた。

 珍しくしおらしい所を見せたかと思えば、気が付くと霊夢の望むとおりに事を運ばれてしまう。
 霊夢は狙ってやっている訳ではなさそうだが、これも博麗の巫女だからこその力なのだろうか。
 霖之助は観念するかのように、霊夢の言葉に応えた。


「そうだね、今では僕はもう動けない身だ。だったらありがたく、その幸せを手に入れるとでもしようか」
「そうそう、素直で素敵よ。ほら、さっさと寝ましょ?」
「分かっているさ。ただ、流石に二度寝をしたら解放してくれるんだろうね?」
「…………多分ね」
「……待て、その長考はなんだ。やめてくれ、流石に解放して貰わないと困るんだ」
「いや、私はどれだけ居れば満足か決めてないし分からないし……でも霖之助さん、『満足するまで居る』って言ってくれたわよね? 満足するまでって」


 嫌な予感しかしていない霖之助に、霊夢が「ちゃんと聞いてたんだから」と人差し指を立てて言う。
 ツケは忘れるほど溜めているというのに、何故そんなことだけは都合良く聞き取って覚えているのだろうか。


「言ったが限度があるだろう? 少しくらいなら開店が遅くなっても構わないが……」
「んー、我が儘ねぇ……じゃあ、お昼前までならいい? ここって、客が来るとしても大体午後でしょ?」
「どこぞやの我が儘さんの為に僕はこうしているんだがね。……分かった、昼前までだ。それでいいかい?」


 霖之助自身、もう何歩下がったか分からないほどの譲歩。少なくとも数万歩は霊夢に譲ったことだろう。
 それに対して、霊夢は満足そうに頷いた。


「ふふっ、ありがと。霖之助さんのそーいうとこ、私は好きよ」
「……そうかい、好きになられても嬉しくない部分だね」


 ついさっき自由になった左手で、自身の頬を掻く霖之助。
 実のところ彼は、先程の霊夢の表情に名残惜しみつつも、自身の上で楽しそうに話す彼女を見て心の片隅で安心していた。
 この表情、この性格、この調子。それでこそ、自分の知る博麗霊夢であると。彼女に、ああいった表情は似合わないと。
 だが、その事は霊夢には伝えない。おそらく彼女は、自覚すらしていないのだろうから。


「そんなことより、早く寝ないと二度寝の時間が減ってしまうんじゃないか?」
「おっと、そうね。それじゃおやすみ、霖之助さん。また数時間後ね」
「ああ、おやすみ」


 言い終わった途端、霊夢は上げていた顔を伏せて目を閉じて、寝の体勢を取った。……どうやら本当に二度寝をするつもりのようである。
 さばさばとした態度で、欲望には正直。人の服を勝手に着て、人の物を勝手に使って、店の食べ物を気にせず漁る。
 しかし、長い間柄だからだろうか、それともまた違う理由があるのだろうか。分からないが、そんな彼女であるというのに、どこか憎めず、今もこのような状態になってしまった。

 ――全く、この少女には何時になっても敵いそうにない。と、霖之助は目を閉じている霊夢を見ながら「やれやれ」と息を吐いた。
 すると、


(……む、これは)


 霖之助の視界が、じわりとぼやけ始めたのだ。長らく布団で横になっていたせいか、眠くなってきてしまったようだ。
 霖之助は寝まいと一瞬思ったが、昼前まではこの状態から動けないことを思い出す。


(ふむ、少しくらいなら、僕も二度寝をしてしまっても大丈夫、か)


 瞼が徐々に重くなる。視界が狭くなってきた途端、眠気が大きくなってくるのを感じる。
 昼までは残り二刻ほどだろう。先程起きたばかりでそこまで長くは寝られないと思うので、昼前に目覚め次第、霊夢を起こせば丁度いい。
 それから、再びこういったことがないように、後で霊夢には炭を大量に持たせることにしよう。
 おそらくツケになってしまうのだが、それはいつもの…………

 こうして霖之助は、今後のことについて長らく思案しながら、眠りへと落ちていった。
 気付かぬうちに、目を閉じている霊夢の頭を撫でながら。







 霖之助が結局寝てしまってから数分。彼の上で寝そべっている霊夢が、ゆっくりと目を開いた。
 目を開けたと言っても、起きる訳ではない。霊夢もまた、再び眠りに落ちてしまう寸前だった。
 霊夢は今にも閉じてしまいそうな眼で顔だけを上げ、霖之助が寝ているのを確認すると、先程の言葉から繋ぐかのように、言葉を紡ぐ。


「うん、好きよ。そーいうとこも、全部、全部ね」


 彼女の口にした言葉は誰かに届くわけでもなく、しんと静まりかえった寝床へ微かに響くのみ。
 言って満足したのか、霊夢は目を閉じて、自身の下にいる霖之助の背中へ腕を回した。


「んー……」


 霖之助に抱きつく形になった霊夢は、まどろみの中で霖之助を静かに感じていた。
 彼の心地の良い心音を、彼の蕩けるような温もりを、男性である彼の大きさを。手で、体で、心で。
 そして瞳を閉じたまま、小さく、小さく呟く。


「……しあわせ、ね」


 まさしく言葉通りの、幸せそうな微笑みを浮かべて。



 結局その後、二人は昼前に起きることが出来ず、暫く二度寝という楽園を手にすることになる。
 二人が目覚めたのは、午後に店へと訪れた茸好きの魔法使いの怒号によってだったらしいが――それはまた別のお話。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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