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オカルトフライデー

間が空きましたが金曜日。ようやく一週間にも終わりが見えてきましたね。
今回はまさかの蓮子。いや、蓮子が可愛かったので、つい。

外の世界と幻想郷についてはどうしようかと考えましたが、無理に幻想入り・現代入りをする必要もないと思ったので、答えはあやふやな感じにしました。
「いつ、どこで世界の境界が繋がるのかは、分からないモノなんですよ」という感じで一つ。




霖之助 蓮子



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 私、宇佐見蓮子はどこにでもいるような平凡な人間である。
 成績は中の上、人付き合いも悪くない、無事にキャンパスライフを満喫している普通の女子大生だ。
 ああ、でも少し一般人と違うところは、生まれながらの変な特技と、とあるサークルに属していることかもしれない。


「ひもの開発は順調順調、と。この調子なら、レポートも提出できそうだわ」


 私の変な特技というのは、月と星を見るだけで時間と場所が判るというもの。小さい頃からこの能力を持っていたため、皆が使えないことには随分と驚いた。
 けれども、別に空を飛べるわけでもないし、未来が見えたりするわけでもない。私の中でこの特技は、ほんの一寸の特徴のような物だと思っている。

 そしてとあるサークルというのは、オカルトサークル「秘封倶楽部」のことだ。
 秘封倶楽部。実のところ部員は二人だけで同好会という体なのだが、まぁ細かいことは気にしない。
 部員の一人は私で、もう一人はメリーという私の親友だ。それぞれ専攻する学問は違うのだけれど、なんだかんだでよく一緒にサークル活動をしている。
 秘封倶楽部の活動内容は、主に除霊や降霊といった霊能者サークルを語っている……が、そんなことは殆どしたことがない、表向きでしかないのである。
 このサークルの本当の目的は、世界に張り巡らされた結界を暴く事。つまり、この世界とは別の世界の入り口を見つけることだ。
 その為私とメリーは、時間を見つけては様々なスポットへと旅をしたりしている。ある時は墓場を巡ったり、ある時は寺を巡ったりと、活動範囲は語りきれない。


「さーてと、今日は開いているのかしらっと」


 しかし、今回はその秘封倶楽部の活動内容の話ではない。今回は、私一人の話だ。
 私とメリーは確かに多く旅に出ているけれど、いつも二人で行動しているわけではない。メリーにはメリーの時間があるし、もちろん私には私の時間がある。
 そして最近私は、その私だけの時間の中で、一つの面白いお店を見つけたのだ。
 自分の住む寮から大学への通学路、その道から少し離れた道のまた外れ、路地裏のような小さい裏通り。その一角にそのお店は潜んでいる。


「……お、開いてた。やっぱり金曜日限定で間違いは無いみたいね」


 店の前で仁王立ちをして、その建物を見据える。
 外観には店という雰囲気は無く、ペンキで白塗りされた最近では珍しい一階建ての家だ。
 休みの日でさえも閉店中なのだけれど、何故か金曜日にだけ必ず開いているという、不思議なお店。
 立て札も看板も何も無く、「商い中」の掛け板だけが飾られた扉の窓から、私はこっそりと店中を窺う。


「お、居る居る。それじゃ、行きましょうか」


 店主が居ることを確認。これなら、中に入っても大丈夫そうだ。
 ということで、私は木で出来た古めかしい扉の取っ手を掴み、


「こんにちは、また遊びに来たわよ」


 その不思議なお店――「香霖堂」へと足を踏み入れた。










「……おや、君か。いらっしゃい」


 店内に入ってまず私を迎えたのは、素っ気ない店主の態度だった。


「相変わらず本を読んでるのね。お客が来たのに顔を殆ど上げないってのは、店主としてどうかと思うんだけど?」
「今し方、遊びに来たと聞こえたからね。お客でもない人には顔を上げる必要も無いだろう?」
「私が初めて来たときも同じ対応された気がするんですけど、それはどういう訳なのかしらね……霖之助さん?」


 人が店内に入って来たというのに見向きもしない、非常識な店主。名前は森近霖之助という少し古めかしい名の人間だ。
 服装は青と黒を基調とした着物のような服を着用していて、現代のファッションとはかけ離れている。何かのコスプレのように見えるが、私服なのだという。
 似合っていないわけではないが、それでは外へ出ると注目を集めるのではないだろうか。本人は気にもしていないようだから良いのだけれども。
 そんな彼の見た目は、金色の瞳に銀色の髪という出で立ちで純日本人でないのは明らか。だが、使う日本語はとても流暢。
 日本に住んでとても長いのか、元々日本生まれなのかは分からないが、聞くまでもなくそのどちらかだろうから私は気にしていない。
 顔は端整で良いと思うのだが、いかんせん性格が少し、いやかなり拉げているのが問題だ。残念な二枚目、という言葉が恐ろしいほど似合っていた。

 
「む、そうだったか。あんまり覚えていないな」
「都合の良い頭脳をお持ちのようで。まぁいいわ、座って良い?」
「商品を壊さなければ、どこでも座って構わないよ」
「そんなクラッシャーめいた事しないわよ、普通に座るってば」


 そう言って私は、彼が座るカウンターの前に置いてある椅子、いつもの定位置に座る。私と彼はカウンターを境に向き合う形になった。
 被っていた帽子を外してカウンターに置き、私はここへ来た目的を彼へと告げる。


「さてと、今日も話して貰おうかしら。霖之助さんの知る妖怪の話を、ね?」
「聞いても何も得しないと思うんだが……毎度毎度、君も好き者だね」
「得するわ、私の知識が深まるんだもん」


 自分の思う良い笑顔、つまりはドヤ顔を彼にぶつけた。


「知識、ねぇ」


 やれやれと、彼が面倒そうに肩を竦める。
 私がここへ訪れている理由。それは、彼が話す妖怪や不思議な世界の話を聞くことなのだ。

 この前は、天狗についての話を聞いた。
 高尾山や鞍馬寺にいるような山を守る天狗を想像していたのだが、まさか別に顔が赤くて鼻が高いわけでもなく、しかも普通の人間のような容姿をしていて、更には新聞記者の体で世界を飛び回っているなんて話をされるとは思ってもいなかった。
 天狗の知り合いが窓から購読している新聞を投げつけてくるという話も、お腹を抱えながら聞いた覚えがある。彼は不服そうだったが、彼の発想にはユーモアが満ちていて時折笑えてしまうのである。
 彼はあたかもその世界に住んでいるような、その妖怪と会ったことがあるような話し方をするので、聞いている私にはそれが事実のように思えて実に面白いのだ。


「それに、霖之助さんの物に対する解釈って、常規を逸脱していてまた面白いし」
「……褒めてないだろう、それは」
「そんな事無いわよ。常規を逸脱なんて、最上級の褒め言葉じゃない」


 眉を顰める彼に私はフォローを入れる。
 実際、彼の考えには舌を巻くものがある。普通の人間なら到底考えつかないような角度から物を見て、自己解釈を付けてしまうその在り方。
 聞いている方は、思わず「おぉ」と言葉を漏らしてしまいそうな位に興味を引くような物なのである。無論私もその一人だ。


「だからさ、ほら、聞かせてくれない? そうしたら、道具の使い方教えてあげるからさー」


 促すように彼に話しかける。私は彼の話をタダで聞いているわけではない。彼から話をして貰う代わりに、道具の使い方を伝授するという条件があるのだ。
 どうやら彼は道具に疎く、昔の道具を使うことを好んでいるようだ。前に水煙草を使っているのを目にしたが、あんな古い物、この店以外では見たこともない。
 そんな彼だから古道具屋というものを営んでいるのかも知れないが、今のこの世界で目覚ましの使いさえも知らないのには流石に頭を抱えた。


「まぁ、話すことは嫌というわけではないんだがね。しかし……君が多くの道具の使い方を知っているということは、人里にはもう同じ道具があるということか」
「人里って……また古めかしい言い方ねぇ」


 苦笑いをしながら、彼の言葉に言葉を返す。
 このように彼は時折、人や場所に対して面白い言い方をする。外は今や、人里なんて田舎ではではなく完全な都市となっているというのにだ。 
 道具の疎さも相まって、まるで彼が昔の時代から来ているような、そんな錯覚さえ感じるが、こうして話が出来ている辺りそれはあり得ない。それに、彼は二十後半、大げさに見ても三十代の見た目。年寄りには到底見えなかった。
 重度の引きこもりか何かなのだろうか。そうだとしたら道具に疎いのもある程度は説明出来なくもないが、限度もある。彼はどうやって生活しているというのだろう。
 そう思っていると、


「古くも何も人里には変わりないだろうに。ふむ、守矢に従う河童たちの物資でも里に流れ着いたんだろうか……」
「え? ……ちょ、ちょっと待って。今、河童って言った?」


 彼が口にした普段決して聞かぬであろう言葉に、私は食いついた。
 河童というと、顔は虎、くちばしはとり、体にはうろこや甲羅があり、頭上に皿のような凹みを持つ水陸両生の生物だ。もちろん想像上の生き物であり、現代に居るはずもない。


「ああ、河童だよ。里で何か変な物を持ち込んだりしていなかったか?」


 それを当たり前のように話す彼。これは……面白い話なんじゃなかろうか?


「いいえ、河童なんて見てすらいないわね。
 ……良いこと聞いたわ。ねぇ霖之助さん、今日は河童という妖怪について詳しく話して貰えない?」
「河童の話をかい?」


 私が頷くと、彼は訳が分からなさそうに首を傾げる。分からないのはこっちなんだけども。


「話せなくもないが、君だってどんな者か知っているだろうに」
「姿とか習性とかは知ってるわ、文献に書いてあるしね。でも、それ以上の事を霖之助さんは知ってるんじゃないかと思ったのよ」


 大学の図書館に行けば、古い妖怪の御伽噺はいくらでも手に入る。河童だけでなく、山彦や鬼などの有名な妖怪についても網羅できるだろう。
 しかし、私の目の前にいる彼は、御伽噺とはまた違った面白そうな河童の事を知っていると思う。
 今まで聞いていた妖怪の話や、今の彼の話し方から、そんな雰囲気を感じ取ったのだ。


「確かに君たちと比べると、道具を扱っている故に河童とはそれなりに親交はある。だが、そんな話で良いのかい?」
「良いんだってば。そうお願いするって事は、そういうことを望んでるのよ」
「……分かった、それなら僕が河童と関わった話でもしようか。主に河童の事を話せばいいんだろう?」
「それでオッケーよ。ふふん、楽しみだわ」


 いつも着ているブラウスの胸ポケットから、ミニサイズのノートとペンを取り出しカウンターへ置く。
 彼の話で興味深いと思ったところは、このノートに書き留めている。そろそろページが埋まるので、新しい、それも分厚めのノートを買う必要がありそうだ。


「途中で聞き飽きた、なんてのは無しでお願いするよ」
「しないわよー。私が今まで霖之助さんの話で聞き飽きたとか言ったことある?」
「一応の確認さ。昨日まで同じだからといって、今日も同じなんて事はありえないからね」
「ふふ、同感だわ。でも大丈夫、聞き飽きるなんて、ありえないから」


 そう、そんなことはありえない。だって、わざわざこうして聞きに来ているのだから。


「ふむ、そうか。なら、どこから話そうか」
「初めて河童と出逢った所からでどう? どうせ話が長くなるなら、こっちはとことん聞いてみたいわ」
「……本当に長くなるが大丈夫かい?」
「元からそのつもりよ。こっちは聞きに来たんだもの」
「……全く」


 「珍しい人間も居るものだ」と彼が言い、少し考える素振りをした後、コホンと一息吐いた。
 私は片手にノート、片手にペンを持ち、インタビュアーのように彼の言葉を迎える。


「そうだね、あれは今から数十年前の事だったかな」
「数十年って……また大きく出たわね。霖之助さん何歳なのよ」


 またいつもの冗談かとからかうように聞いた私に、彼は小さく小さく笑みを浮かべる。


「……!」


 その笑みは、見た目の年齢には似つかわしくない、どこか世を知ったような面持ちで。


「少なくとも、君の何倍かは生きているよ」


 私の心を騒がすには、十二分な威力を持っていた。
 そして、彼の話が始まる。








「……っと、外が暗いな。大分話していたようだ」
「え? うわ、日がほぼ暮れてるじゃん。もうそんなに時間経っちゃってたのね」


 つられて外を見て驚く。ちょっと前までは窓から光が差し込んでいたはずなのに、今ではその光は殆ど差し込んでおらず、暗闇が辺りを包み始めていた。
 彼が話し始めた時、まだ太陽はそこまで傾いてはいなかった。どうやら数時間は話を聞いていたようである。


「話もあらかた話したし、今日はここまでにしようか。そろそろ帰らないと危険だろう」
「うん、流石に拙いわよね。あ、今回も興味深い話だったわ。ありがとうね、霖之助さん」


 持っているノートをひらひらと動かしつつ話す。今回の話は結構な情報量だったので、ページが埋まりきってしまったのだ。
 まさか河童がエンジニアだったなんて話を聞かされたら、自ずとメモをとる量が増えるものである。
 今回も彼の話す内容は面白くも興味深く、聞き終えてとても満足した気分になった。河童のエンジニア。無駄に響きが綺麗で笑いを誘う。


「あっ、そういえば道具の使い方を教えてあげる話だったわね」
「いや、今日はもう遅いから構わないよ。また今度来るときに教えてくれればいい」
「そう? ごめんね、また絶対に来るからさ」


 ノートとペンを胸ポケットに仕舞いながら言葉を返す。
 まさかここまで話に聞き入っているとは、自分でも驚いた。それほど彼の話が面白かったと言うわけだ。


「お待ちしているよ。買い物をしてくれたら尚嬉しいんだがね」
「買い物したくなるような品揃えになったら考えてあげるわ」
「……善処するよ」


 その肯定は、おそらく出来ないという意味が込められているのだろう。なんだかおかしくて、私は小さく笑った。
 ムッとした顔をする彼を余所に椅子から降りて、服の乱れを直す。長らく椅子に座っていたせいで、腰辺りが地味に痛い。


「ああ、途中まで送っていくべきかい?」
「ううん、大丈夫。それにそんな恰好なんだから、下手したら霖之助さんが不審者扱いで捕まっちゃうわよ」
「そこまで酷い服装をしているつもりは無いんだがね……」


 酷いと言うより、現代にそぐわない服装のため嫌でも目立ってしまうのだけれど……本人は変える気が無さそうなので言う必要もないだろう。


「とにかく、気をつけて帰ってくれ。道なりに進めば着くだろう」
「分かってるわよー」


 流石にそこまで記憶力が無い訳じゃない。何度もここへ来ているのだから、寮までの道のりは地図を見なくても分かる。案外彼は心配性なのかもしれない。
 カウンターに置いていた帽子を被った私は、店の入り口へゆっくりと歩み寄る。


「それじゃ霖之助さん、また来週ね」
「ああ、また来週」


 そして再びカウベルを鳴らし、私は店を後にした。











「……ふむ」


 彼女が店を出るのを確認した僕は、カウンターの椅子に深々と座り直し、一息吐いた。

 ここ最近、一週間の内の金曜日にだけ、店に訪れる人間がいる。
 それも訪れるだけで店の商品は買っていかない霊夢や魔理沙タイプかと思いきや、僕から妖怪の話を聞きたがるという少し変わった人物だ。
 名前は宇佐見蓮子と言い、十代後半といった顔立ち。性格は好奇心旺盛で、魔理沙とは違った活発さがある。
 そんな彼女は人里に住む人間のようなのだが……人里の人間と言うには少々首を傾げる部分が多かった。

 まず第一に、服装が変わっている。白いリボンを巻いた黒の中折れ帽子に、赤いネクタイを付けた白のブラウス。スカートは足下にまでかかる黒のロングスカートで、彼女のイメージカラーが白と黒だということが窺える。
 人里にはあまり趣かないが……彼女のような、外の世界の服に似た衣装を着た人物を、僕は見たことがないのだ。
 そしてもう一つ、彼女がここへ来る行動理由についてだ。人里からここまで平坦な道が続いているが、距離は結構なほどある。それなのに彼女は、僕の元へわざわざ妖怪の話を聞きにやって来ているのだ。
 彼女が初めてここへ来たときは、単に興味が湧いたといった理由であり、僕が妖怪とそれなりに関わりがあるということを知らなかった。しかし今では、妖怪について食い入るようにここへと訪れる。
 なぜ普通の人間の彼女が、魔法の森の目の前にあるここまで歩を進めてきたのか。考えれば考えるほど、彼女、宇佐見蓮子について疑問に思うことが浮かんでくるのである。


「もしかして、彼女は本当に外の世界の人間なのか?」


 答えの一つとして、前々から想像していた案を浮かべる。
 外の世界の道具への精通さに加え、彼女の持っているペンとノートという道具の精巧さ。今までの違和感から考えるに、当たっている確率は高い。確率は高いのだが、


「……説明がつかないな」


 そう。仮にそうだとしたら、何故彼女は今もこうしてここへ訪れられているのか、説明を付けることが出来ないのだ。
 外の世界の人間がこちらへ流れ来ることは、無縁塚に趣く僕にとっては常識とも言える事柄だ。その場合、大抵は妖怪に喰われるか何かで死体になっている。
 もしも生きていて人里に保護されているとしたのなら、幻想郷を飛び回る霊夢や魔理沙、天狗達が話題にしない筈がない。人里で保護されていないのだとしたら、あの綺麗な身なりで何度もここへ訪れるような機会を得られるとも思えない。
 そのため、一番近い答えだと思われるその案は、不正解だと感じられてしまうのだ。


「きちんとドアを開けて通ってくる。決して蹴破るわけでもないし、入り口ではない場所からも来ない」


 だがもう少し、今回は思考を続けてみるとしよう。
 彼女は毎週、普通にドアを通ってやってくる。本を読んでいるので姿はよく見てはいないが、カウベルの音が何よりの証拠だ。元々、客が来るのを知るためにある物なのだから。
 扉は、空間と空間を繋ぐ境界線だ。開かなければ、決してその先の世界へと踏み入れることは出来ない。
 そしてそれは、物が流れ着く無縁塚にも言えよう。存在を忘れ去られた物が、人が、生き物が、何らかの切っ掛けを通し、幻想郷への境界線という扉を越える。
 元々無縁塚は境界が曖昧であるため、外界の物が流れ着きやすくなっている。そう、単に確率が高くなっているという話だ。


「だとしたら、低確率で繋がる場所も在る……ということなのか?」


 まさか、と思いつつもカウンターから立ち上がり、閉じられた店の扉へと歩み寄る。
 心臓の刻む鼓動が早くなるのを感じる。立てた仮説が真ならば、それは願っても見ない事だったからだ。もしもそうであれば、早急に準備を始めるべきであろう。
 そして僕は、答えを知るべく扉の取っ手を掴み……勢いよく開け放つ。 


「! やはり……!」


 鳴り響くカウベルの音を耳にしながら、僕は確信した。


「……そうだとしたら一大事、だな」


 ――そんな事は決してない、と言うことを。
 目の前に広がるのは、いつもと変わらない夜の景色。隣には闇に包まれた魔法の森が見え、遠くには仄かに輝く人里の明かりが見える。
 心の中で、立てた仮説が音を立てて崩れ落ちるのを感じた。同じくして、体中から緊張の糸も切れていく。
 当たり前だ。金曜日にだけ、この扉が別世界に繋がっているということなどありはしないのだ。完全に僕の思い違いだったと言うことである。

 安堵の息を吐いて、僕は元居たカウンターへと戻った。そして彼女が人里の人間である理由を組み立てていく。
 外の世界の服装がこちらに多く流れ込んで来ているのは事実だ。もしかすると、人里では密かに外の世界のファッションが流行っているのかもしれない。
 それに、妖怪について知りたいと感じる事は、別段そこまでおかしいと言うわけではない。人里は妖怪から隔離されているため、中の人間の妖怪への知識は、阿求の書籍くらいしかないだろう。
 好奇心や探求心は、大きな行動力を生む。僕自身もそうである。無縁塚まで趣くのは、無縁仏を埋葬するついでに手に入る、外の世界の道具への探求心からだ。そこから考えれば、彼女の遠出の散歩も理解できる。
 こうして考えてみれば、彼女、宇佐見蓮子がこちらの人間であるということも普通に頷けよう。


「また来週、だったか」


 一週間に一度、大体同じ時間に彼女はここへやってくる。
 求める物は商品ではなく、僕からの妖怪についての小話。お代は道具の使い方という取引を持ちかける、不思議な少女。


「買い物をしたくなるような品揃え、ね……」


 僕は店内をぐるりと見渡す。数多くの商品が個々連ねているが、どうやらあの世代の女性にはお気に召さないようだ。
 霊夢や魔理沙、咲夜などが買わないのは、彼女たちの性格や立場上からかと思っていたが、彼女の言葉から本当に買う物が無い品揃えなのだろう。


「来週。それまでに、何とかお客さんとして迎える事は出来ないものかな」


 彼女へ妖怪の話をするのは嫌というわけではない。むしろ、話すこと自体に楽しみを覚えている。
 だが、それとこれとは話が別だ。来たついでに商品を買って貰えれば、これ以上嬉しいこともない。そのためには、彼女たちのニーズに答える必要が在るだろう。
 引き出しから筆と数枚の紙を取り出し、カウンターへと広げる。まずは、気軽に持ち運びの出来るアクセサリーから着手するとしよう。


「ふむ、彼女を標的とした商品を作るのも、良いのかもしれないな」


 そんな事を考えつつ、僕は商品の構想を練り始める。
 その時の僕の表情がどこか嬉しそうだったのは……僕自身も気づくことが出来なかった。











 太陽の差さない路地裏の道を歩きながら、私は一人伸びをする。座っていたことで固まっていた体が、徐々に解されていく感覚が堪らない。
 日がほぼ暮れているので空は暗くなってきているが、道自体は明るい。街灯の明かりがそこかしこを照らしているからだ。
 そのおかげからか、ここら一体は不審者などの物騒な話題が上がらないのだという。通学路が近いのもあり、ありがたい話である。


「んー、今回も中々に有意義な時間だったわね」


 大学で行われている授業と比べると、彼の話の方が遙かに私の役に立ちそうだ。もしもあんな授業があるのならば、聴講でも参加してみたい。
 妖怪についての話題と、彼の現代からかけ離れた特異的な解釈の混ざった妖怪談義。開講したら人気を博すのは間違いないだろう。
 それに、顔も悪くないから女子から絶大な支持を得そうだ。中身が少し難有りだが、講義だけなら大分良い講師になりそうである。
 ああ、それ以前に彼の外への疎さがあった。もしも彼が大学に行っても、器具をどう使えばいいか分からず苦悩しそうだ。その前に、大学への道のり、バスや電車さえも困惑しそう。
 しかし、そんな姿を見るのも良いのかも……


「って、何考えてるんだか」 


 これではまるで、私が彼を外へ連れ出したいみたいじゃないか。
 ふるふると頭を振って、自分の考えを払拭しようと思ったが、


「……でも、案外面白そうかも」


 今度は店内でなく、彼を誘って外で話を聞くのもまた、雰囲気が違って良いかもしれない。
 折角なら、良く行くあのカフェテラスへと洒落込もう。目玉メニューのサテライトアイスコーヒーには、彼も驚くこと一入だ。


「そういや、あの人本当にどうやって生活してるんだろ? 外に出ずに生活なんて出来るわけないし」


 単純な疑問が思い浮かぶ。
 彼の現代の道具への疎さは、今の時代では生活に支障を来すレベルだ。あのお店に電気は通っていなかったようだし、生活水準が些か低すぎやしないだろうか。
 それに衣食住のためには、食料の買い出しが必須となる。しかし彼の物言いからは、外の世界を知らなさすぎなのではないかとも思える。
 これは一体どういう事なのか。誰か一緒に住んでいる人でも居るのだろうか? 私は日暮れを告げる街灯の明かりをぼんやりと眺めて――


「あれ? そういえば香霖堂の窓から外を見たとき、街灯の明かりが見えなかったわね……?」


 ふと、そんな疑問も抱く。
 香霖堂の中で外を見たときは真っ暗だったが、こうして夜道は街灯で照らされ、暗がりなんて存在しないほどだ。
 歩みを止めてその場で振り返り、来た道を見てみたけれど……香霖堂前だけ街灯が無かったわけではない。いつもの通学路に戻るまでの道、今の今まで、街灯は絶え間なく続き私を照らしていた。
 疑問に疑問が重なり、いよいよ訳が分からなくなってくる。元から不思議なお店だとは思っていたが、ここまで来ると奇妙と言えるほどだ。
 店の品揃え、彼の物言い、窓からの景色。これはまるであの店が、外とは区切られた世界のような。


「……これは来週、彼に聞いてみる必要がありそうだわ」


 今から戻って聞こうとしても、きっと帰れと言われるのがオチだ。ならば来週、また開いているときに行って聞けばいい。
 その時には、彼と一緒に外へ行くとしよう。募る話は、彼と外を回ってからでも遅くないだろう。
 どうやって生活しているのか、窓はどうなっているのか。聞くことは色々とありそうだ。


「あ、メリーには……伝えなくて、いいかな」


 メリーの姿が脳裏を過ぎったが、彼女にはもう少し黙っていよう。
 メリーと不思議な情報を共有するのは秘封倶楽部の活動に繋がって楽しいけれど、たまには私個人の活動というのも悪くないと思う。
 というより、そうしたい。今はまだ、私と彼だけの時間でありたい。
 

「さってと、寮に戻ったら質問の内容でも考えるとしようっと」


 考えをまとめて、立ち止まっていた私は再び歩き出す。
 次は一週間後。いつもと同じ時間に行けば、きっと彼に会えるはず。
 その時は彼を外に誘って、色々と場所を回ってからカフェテラスへと洒落込んで……


「……ちょっと照れるわね」


 彼のあの笑みを思い出して、帽子を深く被り直す。


「あー、うん。それと、着ていく服とか、当日のプランとかも、きちんと考えようかな」


 月の光に頼らなくなった夜道で、私はそんな考えを巡らせて寮へと歩みを進めていった。

 なんだかデートみたい、なんて事を思い。
 それでも来週が待ち遠しい、とも思いつつ。
 ――不思議と、にやけてしまう顔を抑えながら。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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