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イザヨイサースデー

そういえば咲霖って作ったことないなぁ、と思ったので。
ようやく木曜日、折り返し地点ですね。あと3つでコンプリートですが果たして。

咲夜さんはやはり出来たメイドさんだよね、今回は伏線が多いそんな咲霖。
あ、オリキャラが出てくるのでご注意を。名前はとある実業家さんからもじらせて頂きました。



登場人物

霖之助 咲夜 レミリア その他




--------------------



周りから聞こえてくる威勢のいい声、道を駆け回る子供、井戸端会議に花を咲かせている人々。
正直、霖之助にとっては用がある場合以外では、気分が良くてもあまり来ないであろう場所である。
天気は生憎の曇り空。まるで、霖之助の心境を表しているようだった。


「どうかされました? そんな今すぐ帰りたい、みたいな顔をして」
「……誰のせいだと思っているんだい」


隣に並んで歩いている女性の言葉に、霖之助は脱力するかのように嘆息した。

人里の通りの一つ、雑貨屋が建ち並ぶ大通り。霖之助は、その女性と共にその道を歩いている。
何故ここに霖之助がいるのか。その理由は彼の横にいる女性――十六夜咲夜が物語っていた。


「君が無理な交換条件を持ちかけてこなければ、今僕がこうしてここにいる必要もなかったんだがね」
「お嬢様の命でしたので。貴方の助けが必要だったの」


「これでも貴方を頼っているんですよ?」と言う咲夜に、霖之助は仕方なしといった風に頭を掻いた。
――大体1時間ほど前だっただろうか。香霖堂で平和に本を読んでいた霖之助の元に、上客である咲夜がやって来たのだ。
今日は木曜。外の世界でも「花の木曜日」と言われるように、木曜は客の入りが少ないと言われている。
そこに上客の彼女が現れた。ただでさえも売り上げが少ない香霖堂にとって、これはありがたい。
いつものように何かを買ってくれるのかと霖之助は期待したのだが……彼女から出た注文は意外なものだった。

『私と、人里への買い物に付き合って頂けますか?
 報酬は今後も贔屓にするかどうか、でいかがかしら?』

……そして霖之助は今に至る。今週はやけに人里に縁がある気がするのは気のせいか。
つまり霖之助は、咲夜に見事なまでに脅され、ここまで連れてこられたのであった。


「あんなことを言われたら、こちらは否応なしに出るしかないじゃないか。香霖堂の客の入り具合は、君も分かっているだろう?」
「それ以外の方法だと時間がかかりそうだったから……こちらも急用だったの、ごめんなさいね」


咲夜がこちらを窺いながら、ちょこんと両手を合わせて謝罪のジェスチャーを示した。
普段は瀟洒に振る舞う彼女だが、時折こういったお茶目な仕草を見せるときがある。
おそらくは彼女の地の性格から来る物だろう。その仕草には違和感がなく、彼女の素が現れていると霖之助は感じていた。


「まぁ、もうここまで付いて来てしまったから気にしないことにするよ。
 ……それで、そちらのお嬢様の命とは何だったんだい?」
「ああ、そういえば言ってませんでしたね」


今思い出しましたとでも言うように、咲夜がぽんと手を叩いた。
素が出ているのは分かるが、本当に彼女がそう思っているのかどうかは見抜けない。
実に不思議、というより食えない女性である。


「今回、お嬢様から雅な傘を探してきてほしいと言われていまして」
「雅な? これはまた特定しにくいものを……」
「どこぞやのお姫様に影響されたのか、最近お嬢様は無理難題を言うのが好きなんです。
 この前はエキセントリックな扇子が欲しいと言われましたし」
「エキセントリック……見つかったのかい?」
「それはもう、エキセントリックな物を見つけましたわ。お嬢様も満足しておりました」
「そうか……彼女にとって、君をお使いに出すことが遊びなのかもしれないな」
「ええ、遊びなんだと思います」


言いながら、咲夜は笑みを浮かべた。
その笑みは、メイドとしての接待スマイルではなく、普通の女性としての柔らかい笑顔。
そう見えたのは、彼女が仕える「お嬢様」の話題だからだろうか。彼女の忠誠心の深さが窺える。


「しかし、傘の注文だったら僕に頼んでくれても良かったのでは?
 いくつか傘を作った経験もあるし、雅……という注文は難しいが、それなりに努力をさせて貰うんだが」
「ああ……いえ、お嬢様は今日中に買ってきて欲しいと仰っておりまして」
「おっと、そうだったのか」
「傘の作成は、一日で出来るほど楽な物ではない事くらいは分かりますわ。
 つまり今日中に傘を手に入れるためには、人里の店頭に並んでいる完成品から探す。それが最もでしょう?」
「ああ、君の言うとおりだ。今日中にと言われたら、僕では作れない」


傘を作るということは、そうそう簡単なことではない。
均一に骨組みを並べることに加え、大きさや使いやすさ、デザインも重視する。
この工程を全て終えるのには、和傘、洋傘共にそれ相応の時間と労力を取られてしまう。
それを一日で作れなどと言われたら、ほぼ不可能に近い。
仮に出来たとしても不完全な出来になってしまうのは、どの傘職人もそうであろう。


「だと思いましたので、今こうして人里に来たというわけです。お分かり頂けたかしら?」
「ああ、良く分かった。それと、安心したよ。
 僕の腕に不満があるからなのかとひやひやしていたところだ」
「いえそんな。店主さんの腕の良さには目を見張るモノがありますわ……腕の良さは」
「あからさまに含みのある言い方はどうかと思うね」
「あら、そんなことは……あ、目的のお店が見えてきましたよ」


こちらを見つつ歩いていた咲夜が前へと目をやったので、霖之助もつられて前を見る。
この会話で、このタイミング。もしかすると彼女は、ここで話を打ち切れるようにしていたのか、と思えてしまう。

そんな彼女の視線の先には、他の雑貨屋と比べると少し控えめな大きさの雑貨屋があり……


「……ん?」


霖之助はこの店に見覚えがあった。
そんな霖之助に、咲夜は話を続ける。


「この『旬感屋』という店を経営されている方は、人里では傘職人と呼ばれているんだそうです。ご存じでした?」
「いや、それは知らなかったが……この店は知っているよ。
 昔、人里にいた頃にちょっとした交流があってね。おそらく店主とも知り合いのはずだ」


咲夜が目指していた店というのは、霖之助が霧雨道具点で修行していた時、道具の仕入れとして贔屓にしていた場所。
実のところ、この店は雑貨屋ではなく、今で言うリユースショップという道具を再利用するべく建てられた珍しい店だ。店のスタイルは、古道具屋である香霖堂とほぼ同じである。
昔はリユースショップという言葉など無かったため雑貨屋という括りとして扱われ、雑貨屋が立ち並ぶこの通りで開くことになったらしい。
ここの店主は人付き合いが良く、馬があった霖之助は結構な頻度で酒を交わしたことを覚えていた。


「そうだったんですか? それに、貴方が人里に居たとは……少し驚きですね」
「色々とあってね。部分部分で良かったら、今度話しても構わないよ」
「あら、それはそれは。いつもの蘊蓄よりも期待出来そうで楽しみです」
「確信犯かい?」
「何がですか?」
「……まあいいさ。それじゃあ行こうか」
「? ええ、行きましょう」


白を切っているのか、それとも本当に分かっていないのか。
咲夜の場合、全く見当も付かない。彼女の言動は常に何か一定のラインを保っており、嘘か誠かを見抜くのは至難の業なのである。
まあ実際、それを明かしたとしても凹むか凹まないかくらいの影響しかないので、霖之助は気にせず店に入ることにした。

咲夜と共に店の暖簾を潜り、ざっと周りを見渡す。しんと静かで、どうやら店主は店の奥にいるようだった。
店の中はそこまで広くはなく、大体八畳ほどの広さ。ただ、その広さの中に多くの商売道具を詰め込んだ、と言う印象を受ける。
右を見れば、子供の玩具や日曜大工のための道具一式が。左を見れば、椅子や食器などと言った様々な日用品が。
頭上にはペナントがこれでもかと柱に貼られており、壁には長く飾っているのか、少し色あせた衣服がずらりと並んでいる。
この「あるだけ並べてみました」、と主張しているような商品。正直、店と言えるのかと思えてしまうほどの無造作よう。


「……前と殆ど変わっていないな」
「そうなんです?」
「ああ、昔もこんな風に道具が詰め込まれた感じだったよ。
 ただ、商品はもう少し真新しくて、あのカウンターに傘は掛かっていなかったね」


店の奥に入る通路のすぐ側のカウンターにあった傘立てを見つつ、霖之助は話す。
昔とほぼ変わらないが、何年かで新しい商売、咲夜の言う傘の販売を始めたのだろう。
周りの古めかしい商品の中、掛けられた数本の和傘と洋傘は、最近作られた品だと分かるほど小綺麗だった。

この店に来なくなって何年経ったのか。
霖之助はもう忘れてしまっていたのだが、並んだ商品たちの煤け様から、大分時が過ぎているのだと分かった。


「私は話に聞いていただけで、今回始めて来たのだけれど……なんだか香霖堂に近い雰囲気を感じますわ」
「いや、僕の店はここまで酷くはないよ。ここまではね」
「ここまで、とは失礼だなぁ……森近よ?」


咲夜の言葉に反論したその時、店の奥から霖之助にとって懐かしい声が聞こえた。
そして草鞋で地面を擦る音と共に、霖之助より少し背の低い一人の男性が姿を見せる。


「君は……一蔵か?」
「ああそうさ、久しぶり。十数年ぶりかな」


そう言うと、現れた男が歯をむき出すようにニカッと笑う。その笑い方を霖之助は確かに覚えていた。


「あの、こちらの方がこのお店の店主さん、でよろしいんです?」
「ああ。こいつがこの旬感屋の店主であり、僕の知り合いだ」
「名を一蔵と言うよ。よろしく、紅い館の従者さん」
「十六夜咲夜と申します、お見知りおきを。紅魔館も、結構知名度があるんですね」


一通りの挨拶をし、互いがどんな人物かを伝え合う。
咲夜と話している彼は、名を小林一蔵という。この人里に初めてリユースショップを開店した、所謂変人だ。
すると、一蔵が感慨深そうに霖之助の方を向いた。


「しっかし、喧噪が嫌いで出不精なお前がここに来るとは思ってもいなかったよ。
 しかも十数年も経っているというのに、顔も姿も殆ど変わっていないと来た。まるで時間を遡った気分だぞ?」
「君は老けたね。十数年ということは、四十は越えてるのか?」
「うっせ、年齢のことは突っ込むなっつーの」


そう言って彼は再びニカッと笑う。
その笑い方は全く変わっていないが、顔には皺が増えていて、体は少し細くなったように見える。
十数年。霖之助にとっては姿に変化のない年数ではあるが、人間にとっては老化が大きく伴ってくる。
人と半妖の差というものを、どことなく霖之助は感じていた。

笑っていた一蔵が、更に話を続ける。


「で、お前さんがここに来たわけだ。何かしらの用があるんだろ?
 わざわざ紅魔館の従者さんというキュートな彼女を連れて来ちゃってよー」
「用があるのは僕じゃないんだよ、僕は付き添いのような物でね。要件なら、その彼女が説明してくれると思うよ」


一蔵の問いかけに霖之助は、必要な部分だけを答える。彼は昔から、人をちょいちょいからかうのが好きな質なのだ。
そういった場合には、必要な部分だけ答えるに限る。彼もからかうことだけが目的なので、スルーされるのはいつもの事だ。
なんだかんだで、昔からの知り合いなのである。こんなやりとりは、何年何十年経とうと変わらない。

そして霖之助は、説明をして貰うべく咲夜の方へ視線を向けた……のだが。


「…………」


何故か、咲夜が少し驚いた表情で霖之助を見ていた。


「……咲夜?」
「あ、失礼しました」


霖之助の声に気付いたのか、彼女は一瞬ハッとした表情になったかと思うと、普段の様子へと戻る。


「どうかしたのかい? 珍しく驚いていたようだが」
「いえ、お気になさらず。
 今回の要件の説明、ですよね? では、話させて頂きますわ」


何事もなかったかのように、咲夜が要件を一蔵へと話し始める。話をしている彼女に、もうおかしな部分はない。
先程の咲夜の表情は何だったのか……考えても思い当たる部分が見当たらなかったので、霖之助はとりあえず頭の隅に置いておくことにした。


「ほお! 主さんが、雅な傘を探しているわけですか」
「はい、傘職人という話をお聞きしましたので、ここを選ばせて頂きましたわ」
「そりゃ光栄だ。今、その『雅』に値するくらいの傘を持ってくるとしよう、待ってていただけますかな」
「ええ、よろしくお願いします」


咲夜の言葉を聞き、一蔵は店の奥へと再び戻っていった。おそらく、自信作は大切に取り扱っているのだろう。
店がリユースショップと言う名目で商売をしているため、そのような商品は別途で取り扱っているとも考えられる。
彼が奥に入ってから少しの沈黙の後、咲夜が口を開いた。


「明るい方ね。貴方の知り合いと聞いて、どんな無愛想な人なのかと思いましたが」
「待ってくれ、普段僕はどんな風に思われているんだ?」
「どんな風って……言葉通りですよ?」
「……改善できるよう努力させてもらおう」
「楽しみにしておりますわ。
 ……ああ、店主さん。少しお聞きしたいことが」
「聞きたいこと?」


地味に傷つき視線を落としていた霖之助は、気を取り直して咲夜を見る。当の咲夜は、どこか落ち着きがないように感じられた。
彼女にしてはまた珍しい態度だ、どこか調子でも悪いのだろうか。
しかし、調子が悪いのならば、彼女は時を止めて休むことも出来るはずなのだが。


「先程の店主さん達の会話のことなのだけど、あの時貴方……」
「よっと、お待たせしましたかな」
「あっ」


咲夜が質問の内容を言おうとしたその時、タイミングを合わせたかのように一蔵が店の奥から戻ってきた。
彼の腕には、今回の目的の品である傘が五本抱えられている。あれが彼の自信作の傘なのだろう。
そのまま彼はカウンターに傘を置き、付近の椅子に腰掛けた。


「十六夜さんの言う、『雅な傘』に相応しそうな傘を選ばせて頂きましたよ。
 この中から、貴女の思う『雅な傘』を選んで頂けますかね?」
「わざわざありがとうございますわ。では早速、選ばせて頂きます」
「咲夜、今の話は……」
「……申し訳ないのだけれど、後でまたお聞きしますわ」


そう言うと咲夜は、カウンター並べられた傘を手に取り、吟味し始めた。
自分の事よりも仕事が優先、ということか。全く、良くできた従者である。


「一蔵、僕が見てもいいか?」
「構わんよ。気に入ったのなら買っていくと良い」


ただ突っ立って居るのも暇なので、霖之助も傘を見ることにした。


「では、これを」


一本の傘を手に取り、ゆっくりと確かめていく。
一蔵が持ってきた傘は、全て和傘であった。洋傘も扱っているようだが、『雅』と言えば確かに和傘が似合うだろう。

霖之助が選んだ傘は、大人用の大きさであるのに片手で軽々と持てるほどの竹で出来た番傘だ。
親骨と受骨の部分が通常の和傘よりもわずかに少なくなっていて、これが軽量化に繋がっているのだろう。
かといって脆そうではなく、骨一つ一つに丁寧に柿渋が塗られていて、耐久面をカバーしているように見える。
手元と中棒も組木処理が細かく施されていて、容易に外れてしまいそうなことはないだろう。


「ふむ、お次は……」


閉じた状態ではこれくらいかと思った霖之助は、持っていた傘を開いてみて――


「!」


驚きで目を見開いた。


「どうだ森近、俺の傘は?」
「……驚いた、君が職人と呼ばれる所以が良く分かったよ」


開いた傘を眺めながら、霖之助の口から小さく感嘆のため息が零れた。――外側の傘布に、絵が描かれていたのだ。
描かれていた絵は、紅の翼を纏う朱雀。中国神話で「五獣」としても有名な神鳥だ。その朱雀が、傘の石突を中心として包むように佇んでいた。
絵の具合から、骨組に傘布を貼り付けてから絵を施したのだろう。骨と傘布の凹凸に、上手く朱雀の翼が合わさっている。
開いてから確認できる上ハジキと下ロクロの部分も、寸分のズレもない見事な仕上がりだ。まさに、文句なしの出来映えである。

咲夜の持っていた傘も同じように絵が施されていたようで、「これは……見事ですね」と彼女は感心していた。
彼女が持っている傘に描かれた絵は、玄武。これも朱雀と同じ「五獣」の内の1柱である神だ。


「相変わらずお前は素直じゃないなぁ。十六夜さんみたいに、そこはハッキリ褒めてくれりゃいいものを」
「これでも精一杯褒めたつもりだよ。
 僕が持っている傘には朱雀の絵、咲夜が持っている傘には玄武の絵。そして君が持ってきた傘は五本。つまり残りは……」
「そう、残るは青龍、白虎、黄麟の傘だ。古来の神さんの風貌は、まさに雅って感じだろ?」
「ああ、意味合いからもまさにと言ったところだ。絵のクオリティといい、君の自信作というのも頷ける」
「素晴らしい傘ばかりですわ。これなら、どの傘でもお嬢様の目に適いそうです」
「へへ、それはどうも。制作者冥利に尽きますよ」


一蔵がニカッと笑い、嬉しそうに応える。
時間を掛けて作り上げた自信作が認められたのだ。嬉しくないはずもないだろう。
作成した物が評価されると嬉しい、それは霖之助も同じだ。道具を、作品を作る人間は総じて、そういうものなのである。

霖之助がそう思っていると、玄武の傘を置いた咲夜が、先程から霖之助が持っている傘を見た。


「あ、店主さん、少しよろしいですか?」
「なんだい?」「何かありましたかい?」
「……あら?」
「む?」「おお?」


咲夜の言葉に、霖之助と一蔵の二人が反応した。いや、反応せざるを得なかった。
彼女が霖之助を呼ぶときの二人称は……今だと混乱を招く物だったからだ。


「あー、咲夜。その呼び方だと、こちら側としては少しわかりにくい。ここには、店主が二人いるのだからね」
「はっは、お前が店主か。お前が言うと嘘くさく聞こえるな」
「これでも店主としてやってきているよ。だから彼女の言葉に反応したんだ。
 咲夜、ここの店主は一蔵だ。今は彼を「店主さん」にして、僕を別の呼び方にして貰えるかい?」
「確かにそうですわね。それじゃあ……」


腕を組んだ咲夜は、頬に自身の人差し指をあてて考える素振りをし……霖之助を見た。


「霖之助さん、でいいかしら?」


少し首を傾げながら、咲夜は問いかける。
その呼ばれ方には慣れていたが、人によって感じ方は変わる。
咲夜からそう呼ばれるのは初めてだったので、霖之助はどこかむず痒さを感じた。


「……構わないよ。それで、どうかしたのかい?」
「ええ、貴方の持っている傘だけ見ていませんでしたので、私にも見せて頂けないかと」
「おっと、すまない。そういえば、ずっと持っていたままだったな」
「おや、十六夜さん。こっちの三本もまだ見ていないのでは?」


一蔵がごく自然な疑問を咲夜にぶつける。確かに一蔵からすれば、咲夜はまだ「玄武」の傘しか見ていないからだ。
しかし霖之助は彼女の能力を知っていたため、その疑問は出てこなかった。逆に知らなければ、誰もがその疑問を感じることだろう。
そう。彼女の少し卑怯とも言える、「時を操る程度の能力」を知らなければ。


「いや一蔵、もう見終わっているんだ。
 彼女は時を操る。僕らの知らない間に、すでに全部把握済みなんだろう」
「時を? そりゃ驚いた、便利なもん持ってらっしゃるんだな」
「あら、疑われないんです?」
「俄には信じがたいですが、こいつがさらっと言うならそうなんでしょう。ほら森近、さっさと渡してやれって」
「それはどうも、聞き分けがいい男で助かるね。咲夜、これを」


「一言多いっつの」と怒る一蔵を尻目に、霖之助は咲夜に持っていた傘を渡し――


「ありがとうございます……確認しましたわ」


見終わったようだ。便利な物である。
そして咲夜は、一蔵の方へ体を向けた。どの傘を買うか決めたのだろう。


「では店主さん。この朱雀の傘を頂けますか?」
「この傘でいいんですかい?」
「はい。お嬢様には、やはり紅がお似合いですので」
「かしこまりました。お代ですが……これくらいですな」
「分かりました。では、こちらで」
「……」


パチパチと算盤を弾き金額を提示した一蔵に、顔色を変えずに咲夜は金銭を支払う。
その金額は、香霖堂の売り上げ半年分、それ以上の値だったのだが……霖之助は深く考えないことにした。

店の売り上げは、場所によって大きく変わる。香霖堂の売り上げが芳しくないのは、魔法の森付近にあるため、人間があまり来られないからであろう。
しかし、香霖堂はまだ建ててそれほど年数は経っていない。客足が増え、売り上げが伸びるのはこれから、これからなのだ。


「コホン。……これで買い物は終了、ということか」
「そうですね。
 店主さん、お邪魔致しましたわ。素晴らしい傘をありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそお買い上げありがとうございました。大事にしてやって下さい」
「承知致しました……それでは」


そう言うと咲夜は綺麗に一礼し、店の外へ出て行った。
店内に残ったのは、霖之助と一蔵の二人。


「では、僕もお暇させて貰うとするよ」
「ん、そうか。もう少し話しておきたかったんだがな」


少し名残惜しそうに、一蔵が霖之助を見る。
十数年振りの再会だったのだ。確かに、もう少し話をするのも悪くない気もするが、そうもいかない。


「悪いが、人を待たせているんでね」
「外の十六夜さんか」
「そういうことさ」


店の入り口の方を見ながら、霖之助は言う。
そう、霖之助には仕事があるのだ。買い物に付き合うという、店の繁盛を賭けた大事な仕事が。
イベントは、帰るまでが何とやら。最後までやり通してこそ仕事というものである。


「ふん、女を待たせるのは宜しくないな。ほれ、さっさと行ってこい」
「言われなくても。それじゃ一蔵、僕はこれで」
「ああ、またな」


一蔵の言葉を背に、店の入り口へと歩を進める。
そして暖簾を潜る直前に、霖之助は彼の方へと振り返った。


「――そうだね。君がくたばる前には、また来るとするよ」







「……結局、僕は最後まで何もしなかったわけだが。
 こうして君に人里へ駆り出された理由は、一体何だったんだい?」


『旬感屋』を後にしてから数分。
人里の出口に差し掛かったところで霖之助は、歩きつつも気になっていたことを咲夜に問いかけた。

傘を買うだけであるなら、咲夜一人でも出来る。
彼女が前にエキセントリックな扇子とやらを探しに行かされた際は、彼女一人で探し、見つけることが出来たのだろう。
それは今回も同じはずである。既に傘職人の店を見つけていたし、彼女は自分で傘を選んだ。

その事を伝えると、咲夜は「あぁ、そういえば」と手を叩いた。
どこか既視感を覚えたのだが、気のせいだろうか。


「本当は貴方に質の良い傘を見つけて貰いたかったのだけれど……あの店主さんのおかげで手間が省けましたね」
「初めからそう伝えておいてくれれば良かったんだがね」
「傘があまりにも綺麗だったので、すっかり選んで貰うのを忘れてましたわ」
「すっかり、ね……つまり僕は、無駄足に終わったというわけだ」
「いえ、霖之助さんが付いてきて下さったことは、私にとっては無駄足ではありませんでしたよ?」
「? それはどういう……ん?」


彼女に問いかけようとしたとき、霖之助の鼻先に冷たい水が触れた感覚が走った。
思わず空を見上げると、そこには人里に来たばかりの頃よりも黒ずんだ暗雲が広がっていた。
それに加え、鼻につく雨が降り始める時の独特の匂い。……これは、間違いなく一雨来そうである。


「あら、雨かしら」
「しまったな。傘を持ってきていないんだが」
「あ、それでしたら」


そう言うと咲夜は、自然な動きで一つの傘を広げた。
そして傘を少し高めに持ち、霖之助を見る。


「どうぞ、お入り下さい」
「……それはさっき買った傘だろう」
「そうですけれど、何か?」


「問題ありますか?」とでも言うかのように、咲夜が首を傾げる。
咲夜が広げた傘というのは、紛れもなく先程購入したばかりの朱雀の傘だ。
彼女の着ている薄い青を基調としたメイド服に、傘の紅が良く映えている。
……問題というよりも、色々突っ込むべき部分が多すぎた。


「何かって……新品の傘を、そちらのお嬢様より先に使ってしまっていいのかい?」
「一度使ってみないと、本当にこの傘が使えるか分からないじゃないですか。料理で言う毒見みたいなものですよ?」
「いや待て、その理屈はおかしい」
「あら、では私はこの傘を差しながら帰りますわ。
 霖之助さんは、そのまま為す術もなく雨に打たれつつ帰ってくださいね?」


笑顔を浮かべた咲夜が歩き出す。そうしている内にも、雨脚がどんどんと強まって来た。
結構な雨になりそうだ。もしも何もしていなければ、香霖堂に着く頃には全身びしょ濡れになってしまいそうで。
霖之助は、咲夜を呼び止めた。


「咲夜…………傘は僕が持つから、入れて貰えやしないだろうか?」
「ええ、それでしたら遠慮なくどうぞ」


霖之助の方へ振り返った咲夜が、小さく笑みを浮かべた。
それは、計画通りと言わんばかりの策略家な笑みであったのだが――どことなく、嬉しそうな笑みにも見えた。

だが、その事について言及してもはぐらかされてしまうだろう。
霖之助は何も聞かないことにして、咲夜の持つ傘を手に取った。


「流石に、少し狭いか」
「では、もっと詰めますね」
「っと……」


咲夜が霖之助の腕に自身の腕を絡め、歩き出す。
それにつられて霖之助も、仕方なしと言った風に歩き出した。

人里を抜けて、二人は歩を進める。
人里から紅魔館までの道のりの途中、ちょっと道を逸れれば香霖堂が見えてくる。
それまでは彼女の傘を借りつつ、この状態で歩くことになるだろう。
気が付くと雨は本降りとなっていて、雅な傘を叩く雨音は相当なものになっていた。


「そういえば咲夜、僕と一蔵の会話について、何か聞きたい事があったんじゃないのかい?」
「ああ、それは……いえ、もう平気ですわ」
「そうなのか?」
「ええ、そうなんですよ霖之助さん。
 聞くよりも、自分で解釈した方が良いと思いましたので」


柔和な笑みを浮かべつつ彼女は答える。
あの店で質問された時、彼女はどこか落ち着きがないように見えたのだが……彼女なりに解釈したからか、もうそのような態度は見られなかった。
一体どの様な質問をしようとし、どの様な解釈をしたのか。おそらくこれも、聞いたところではぐらかされてしまうのだろう。

そして霖之助にとって、気になることがもう一つ。


「それと咲夜。あの店内ではないから、もう僕の呼び方を戻して構わないよ」
「名前で呼ばれるのはお嫌いですか?」
「そういうわけじゃない。ただ、君からは呼ばれ慣れていないから、少し違和感がね」
「でしたら、違和感が無くなるまで何度でも霖之助さんとお呼びしますわ。いかがですか、霖之助さん?」


そう言うと咲夜は、更に霖之助へと寄り添ってくる。
絡めた腕からも力が加わったのを感じる。……ほとんど咲夜が霖之助に体を預けているような状況だった。

霖之助は傘を持たない方の手で、頭を抱えてため息一つ。


「……急にどうしたんだ? 是非ともこの行動と、名前呼びを強いる理由を聞きたいね」
「あら、それはもう、だって……」
「だって……?」


聞き返した霖之助の様子を窺うように、咲夜が上目遣いで見つめる。
身長差から自然と上目遣いになるのは必然なのだが、霖之助は彼女が狙ってそうしているようにも見えた。

瀟洒で、ミステリアスな人物。それが十六夜咲夜という女性だ。
しかしその時霖之助は、彼女の本心が現れている部分を一つだけ、見抜くことが出来た。


「……名前で呼んだ方が、『キュートな彼女』らしいでしょう?」


――顔が真っ赤になっているのは、狙うことが出来ないものだろう、と。























「で、香霖堂まで相合傘で帰ったの?」
「はい。一人用だったので、ある程度濡れてしまいましたわ」


濡れた部分のスカートの裾を持ち上げて、咲夜は濡れているということをアピールする。
それを見るは、紅魔館の主のレミリア。

紅魔館のエントランスホール。
霖之助を香霖堂まで送り紅魔館に帰ってきた咲夜は、出迎えてくれた主に質問されていた。


「咲夜のその嬉しそうな顔を見るに、だいぶ幸せな時間だったみたいね」
「それはもう。楽しい会話をさせていただきました」


恥ずかしがることもなく、咲夜は答える。ここまですっぱりと言われると、質問した方も清々しい気分だ。
彼女の反応を見るに、香霖堂店主もまんざらではなかったのだろう。

すると、咲夜がその場で膝を付き、献上するようにレミリアへ持っていた物を差し出した。


「お嬢様、こちらが命じられた『雅な傘』に見合う品でございます。
 一度使用し、不良がないことは確認致しました。お確かめ下さい」
「お、来たわね。
 なんか目的の品を使ったことを上手いこと理由つけて正当化しようとしてる気がするけど、まぁ不問にしてあげるわ」
「ありがとうございます。お嬢様の山よりも高く、海よりも深いお心に感謝致しますわ」
「心に高さは必要ないわよね、そこで言うべきは広さよね?」
「そうとも言いますわ」
「……まぁ咲夜だしいいか。それじゃあ早速……」


こほんと一息吐いたレミリアは、咲夜から傘を受け取ると、その場でゆっくりとそれを広げた。
薄い茶色をベースとした生地の表面に、石突を包むように描かれた朱雀の絵。


「おおー、これは中々な出来映えね」
「軽量化に加え耐久面を強化し、かつ客観性も重視したという番傘です。お気に召して頂けましたでしょうか?」
「うん、うん、まさに雅って感じ。
 いいわ、気に入った。流石ね咲夜、今回もPerfectよ」
「恐悦至極でございます」


レミリアの言葉に、瀟洒に一礼する咲夜。
すると、傘を閉じたレミリアが感心するように咲夜を見た。


「しっかし咲夜、今回は仕事が早いわねぇ。
 ――折角期限を1週間も設けてあげたのに、当日で済ませちゃうなんて」
「お嬢様の命であれば、即座にこなすのが従者の勤めですよ」
「そりゃ嬉しいけどさ。
 ほら、傘ってそう簡単に作れるものではないでしょ? あの引きこもり系道具屋に依頼するとか、そう言う手間とか必要かなーと思ってたんだけど」


レミリアにとって、そういった雑学に関してはある程度理解があった。
道具に精通していなくとも、永く生きているとそのような話は嫌でも耳に入ってくる。
そのため今回のお題は、前回の扇子とは違って期限を設け、その期限相応の物を持ってきて貰うつもりだったのだ。
しかし咲夜はそれを一日で、しかも中々の物を持ってきたのだから、レミリアは感心していたのである。


「ええ、あの道具屋さんには、きちんと依頼しましたよ」
「お? なに、あの店主、これ一日で作ったの? そこまで凄かったっけ?」
「いえ、そうではなく――」


驚いているレミリアに対し、咲夜は小さく首を横に振る。
そして自身の胸に手を当て笑顔を浮かべ、嬉しそうに答えた。


「私とデートをしてください。という依頼をですよ」




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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例大祭9(2012/05/27)
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藤色コンタクト C83(2012/12/30)
太陽と霖が望む空
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