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得手に幽谷響を揚げる

遙か昔、とあるかへおれさんに「響霖とかいかがですかフンスフンス」とリクエスト(誇張されている部分があります)して頂いたので。
文体とかいろいろと考えたのですが、結果こんな形に落ち着きました。
たまにはこんな風でもいいですよね。響子マジ幽谷響。



出てくる方々

霖之助 響子 霊夢 魔理沙



--------------------

いつからだっただろうか、山で人の大声が聞こえなくなったのは。
いつからだっただろうか、私たち幽谷響の存在が否定され始めたのは。



私たちの存在が廃れてきた原因の一つには、外の世界からの情報が関わっていたらしい。
『山彦は、音の反響によって起きるただの現象に過ぎない』
そんな噂が、幻想郷にも入り込んでしまったみたいなのだ。

私たちの姿も見ないで現象としてしまうなんて、外の世界の人間はなんて酷いのだろう。
ただの現象と定義することで、妖怪の存在を否定したかったのか。それとも、本当にただの音の反響なのだと信じ込んでいるのか。
とても納得がいかないけれど、実際、その噂が幽谷響の存在意義に大きく関わることになってしまったのには間違いない。

妖怪という生き物は、人間がいるからこそ生まれ、存在する。妖怪たちは皆、本能的にそのことを理解している。
そして人間が存在を否定、忘れてしまった途端、妖怪という生き物は在ることが出来なくなることも、私たちは同じように理解しているのだ。

元々山で叫ぶ人が少なくなっていた幻想郷で流れ始めた最悪の噂は、山で叫ぶ人を更に少なくするという最悪の結果を招いた。
妖怪だと分かって山彦を楽しんでいた人間たちも、山で叫ぶことを次々と止め始めてしまったのだ。
私自身の存在が否定されていること。山彦をすることが出来なくなってしまったことによる存在意義の喪失。
山に住んでいる私が俗世に空しさを覚えることは――そう遅くはなかった。



空しさを覚えた私がたどり着いた先は、人里に新しく出来た命蓮寺という妖怪寺だった。
やるべきことがないのであれば、常に一つの目標へと目指す仏門に入りたいと思った。
やるべきことがないのであれば、何か自分が存在していると証明できることがしたかったのだ。
そうでなければ、意味を無くした妖怪に未来など残っていないから。

そんな理由で寺に訪れた私を快く迎えてくれた命蓮寺の皆さんには、とても感謝してもし切れない。
お寺の主の聖さんが魔法使いの元人間ということには驚いたけれど、妖怪から愛されていることが分かる程の徳を持っているというのが見て取れた。
この人なら、身を任せても大丈夫。私は心からそう思えたのである。

そして聖さんも、
「大丈夫。私がいるから、人間のみなさんが貴方たちに害を加えることはありませんよ」
と言ってくれていたので、私は安心して山から命蓮寺に通う事が出来ていたのだ。

仏門に入ってからの命蓮寺通いの生活は、私にとってとても素晴らしい事の連続だった。
命蓮寺戒律「挨拶は心のオアシス」のおかげで来る挨拶を山彦することが出来る。
聖さんのおかげで、妖怪と言う理由で迫害されることも無い。
それに、覚えた経文を山で読んでいただけなのに、なぜか人から畏れられるという事にもなった。


ああ、なんて充実した生活なのだろう。
このまま仏門に生きて、ひっそりと過ごしていくのもいいかも知れない。


心のどこかで私は、ひそかにそう思っていた。
そんな、ある日のこと。


「えっと、それって……どういうことですか?」
「ああ、そうだね。簡潔に言えば、僕には君が必要なんだ」
「え? ……えええええっ!?」


えっ。
あれっ。
どういうこと?
見ず知らずの男性に告白されて、ひっそり過ごすどころじゃないんですけどっ!?









「あーあ、今回の異変とやらもハズレだったな」
「見に行って損だったわねぇ。それに、また変な奴らが神社に来るようなったし」


「おや、最近の神霊騒ぎは異変ではなかったのかい?」


「異変じゃなかったな」「異変じゃなかったわね」


「……最近、君たちが異変を解決してないような気がするよ」


「そんなぽんぽんと異変が起きられてもこっちが迷惑被るだけよ。本当はこうしてゆっくりとお茶飲んでいたいんだから」
「まったくその通りだな。見に行ってやるほうの身にもなって欲しいもんだ」


「妖怪退治専門の博麗の巫女の言葉とは思えないね、まったく。
 そういえば、そもそも魔理沙は興味本位で見に行っているだけじゃないか?」


「おお? そんなことは無いぞ。地底の異変の時はヒーローみたいだったぜ?
 少女の助けの声を聞き、正義の魔法使い・霧雨魔理沙が立ち上がるーって感じでなっ」
「ただのパシリに見えたのは私だけかしらー」
「なっ、そんなことは……ち、違うよな、香霖?」


「いや、そんな動揺した顔で僕に同意を求められても困るんだが。
 というか、やはり地底の時以外は興味本位だったのか……」


「うぐぐ……あー、やめやめ! これ以上考えると私が悲しみに包まれそうだっ!
 そんなことより、そういや命蓮寺に面白い奴が増えてたな! な!」
「ん? あー、あの幽谷響か。早朝からやかましかったわねぇ。
 ああいうのって、騒音問題とかで白蓮を訴えられないのかしら」
「異変とか関係なしにぶっ飛ばしたから結果オーライだろ。
 まぁ、あいつが朝っぱらから五月蝿かったのがいけないんだぜ」


「幽谷響が命蓮寺に居たのかい?」


「ああ、ぎゃーてーぎゃーてーって馬鹿でかい声で叫んでたぞ。
 外の本を読んで、てっきりヤマビコは音波の反響から出来てるもんだと思いこんでたんだがな。本人様降臨とか笑えないぜ」
「そう思う人が増えちゃったから、存在を見せ占めるために山を降りて来たんじゃないの? ぶっ飛ばしたから詳しく聞いてないけど」
「お、そういや暇を持て余したから仏門に入ってくれたー、とかいう話を白蓮から聞いた気が。知ったことではないが、ヤマビコはヤマビコで大変なんだな」


「幽谷響が仏門に、か。
 聞いた言葉を繰り返せる幽谷響にとっては、天職かもしれないね」


「よく山で般若心経を朗読してるらしいわ。山の妖怪も、そのせいで一部分覚えちゃったとか聞いたし」
「声でかいから山全体に通るんだろうなー。命蓮寺でも遺憾なく発揮してるみたいだぜ」


「なるほど、門前の坊主が経文を覚える事と同じ要領で覚えてしまったのか。
 む、それならば、違う事も覚えてもらえるのでは……それはなかなかに……」


「? 霖之助さん、どうしたの?」
「……おい香霖、今なんかよからぬこと考えてないか?」









「そ、そっか。そういうことだったのね」


一度落ち着いて話を聞いてみると、私が言われた言葉は告白でもなんでもなかった。
そうだよね、出会って早々告白とかありえないことだし……驚いたのは言うまでも無いけども。


「ああ。君のその能力を、僕の商売に使わせてもらいたくてね」


先ほどの私の大声を正面で受けてしまったからか、軽く耳を塞ぎながら店主さんは言う。
私に話しかけてきたこの人は森近霖之助という方で、なんでも魔法の森でお店を営んでいるらしい。
人の来なさそうな場所に店を構えるなんて……なんとも不思議な人である。

店主さんの言っていた内容は、私の大きな声を使って、私の住む山にいる妖怪たちにお店の宣伝をして欲しいとのこと。
山に住んでいる妖怪が、私の読んでいる経文を聞いて内容を覚えてしまった。そんな話を聞き、この案が浮かんだらしい。
……私って、さりげなく有名になっているのかな? だとしたら、それは嬉しい限りだ。

とにかく有名云々は置いといて、確かにそれと同じ要領ならば、私は経文の代わりに店の宣伝文を読むだけでいい。
実に簡単で、とても楽な作業……と、言えるけども。

私が悩んでいると、表情から汲み取ってくれたのか、店主さんが話を続けた。


「もちろん、無償でやって貰おうなんて考えていないよ。
 お礼、と言うより報酬として、君が欲しいと思っている物を僕が提供しようと思っていてね」
「提供?」
「僕は道具を売ると共に、道具の製作もしているんだ。
 依頼さえあれば、大抵の道具なら作ることが出来るよ。……まぁ、必ずとは言えないんだがね。
 けれども、道具屋として出来る限り、顧客の要望には応えているつもりさ」


苦笑いしながら、店主さんがそう答える。どこか嬉しそうで、そしてどこか誇らしげな表情で。
その顔を見て「この人は本当に道具が好きなんだろうなぁ」と、私はどことなく感じていた。


「どうだい、一度やってみてはくれないだろうか?
 無論、断ってくれても構わない。無理を承知なのは十分に分かっているよ」
「むむ、どうしよう……」
「道具の提供という条件に不満があるのなら、もちろん他の条件も考えるとも。
 こちらから頼んでいる立場上、相手の利に叶う条件じゃなければ不公平だからね」
「むむむぅ……」


店主さんの言葉を聞いて、更に私は考える。
命蓮寺に居るとき以外で私がしていることは、大体山で経文を復習しつつ読んでいるだけ。
言ってしまえば、要は暇なのである。

それならば、暇潰しのため……というのもどうかと思うけど、受けてみるのも悪くない。
……あ、そういえば。


「あの、道具の提供という条件を、道具の修理に変えてもらっても大丈夫ですか?」
「修理かい? それなら大丈夫だ、問題ないよ」
「そうですか! それなら……」


店主さんの言葉を聞いて、私は笑みを浮かべた。
少し前に命蓮寺を訪れた変な人たちとのいざこざによって、ある道具が壊れていたのを思い出したのだ。
それの修理も兼ねて、これは私に巡ってきた丁度いい機会なのかもしれない。

「よし」と心の中で一つ意気込んで、私は店主さんを見た。


「わかりました。それでは一度、やらせていただきますっ」
「本当かい? ありがとう、助かるよ。
 では早速、やって貰いたい内容を……の前に、修理したいという物を預かった方がいいか。
 それを受け取ってから、宣伝の詳細を話させてもらうよ」
「あ、分かりました。
 少し待っててください、取ってきますので」


店主さんにそう告げて、命蓮寺の門の裏側へと駆ける。
助かったのは私のほうかもしれない。もし無理なら、私にはアレを直すことが出来なかったから。

数秒ほどで門の裏に着き、私は立て掛けていた目的の物を手に取って、元いた場所へと戻る。


「お待たせしました。これを直して頂けますか?」


そして、持ってきたある物を店主さんへと手渡した。
店主さんは渡された物をざっと一通り見ると、考える素振りをする。


「ふむ……見事に折れてしまっているね。
 まぁ、これくらいならば直すのは容易いが……なぜこんな風に?」
「えーと、先日、変な巫女さん達が現れまして」
「!? 
 あー、すまないがその話、詳しくお願いできるかい?」
「へ? いいですけど……?」


私の言葉を聞いた途端、店主さんは一瞬驚いた顔をしたかと思うと、私の話の続きを催促してきた。
そんなに変な巫女さんが気になったのだろうか? ……たしかに、変な巫女と言われれば気になるのは当たり前かもしれない。

多少気になったが話して減るものでもなかったので、私は店主さんに事のあらましを話すことにした。









「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」


「なーんかここ最近、香霖堂に客が来てる気がするな。異変か?」
「そうね、香霖堂にとってはあるまじき事態ね。異変かしら?」


「……君たち、失礼だと思わないのかい」


「「いや、全然」」


「……はぁ」


「でも、急にどうしたんだ? 一日に一人くれば上出来なくらいなのに、今日はもう三人も来てるぞ?」
「ホント、珍しい事もあるのね。
 けど、訪れた客全員が私たちの姿を確認するたびにビクッと怯えるのはどうかと思うんだけど」


「妖怪退治専門の君たちがいたら、妖怪のお客が驚くのは当たり前だろうに。
 こうして客が来てくれるのは、とある人に店の宣伝を頼んだからだよ」


「宣伝? 文にでも頼んだの?
 文の新聞なんかじゃ、ここまで集客効果があるとは思えないんだけど……」
「んー、他に居るとしたら阿求か?
 でも、あいつが店を紹介したら……逆に客が来なくなりそうなんだがな」


「彼女たちの集客効果に関しては……まぁ、ノーコメントとさせてもらおうか。
 誰に頼んだかというのは、ここでは秘密にしておくことにするよ」


「えー、ケチくさいわよー、霖之助さん」
「そうだぞ、ケチは貧乏の始まりだぜ?
 で、そういやさっきから何でそんなの作ってるんだ? なんだ、私へのプレゼントか?」


「仮に僕がケチで貧乏だとしたら、原因は君たち以外に考えられないんだがね。
 それと、嬉しそうな顔をしてるのに悪いが、今作ってるこれは魔理沙へのプレゼントじゃないよ。
 これはお詫びの印を兼ねた――歴とした対価なのさ」









「ぎゃーてーぎゃーてー」
「やぁ響子。こんにちは、かな」
「はらぎゃー……あ、店主さんこんにちは!」

店主さんに箒を直して貰い、私が宣伝を始めてから一週間程経ったある日。
私が午後の掃除を始めて間もなく、店主さんが命蓮寺を訪れた。

きちんと挨拶をしてくださったので、私もきちんと挨拶を返す。もちろん、持ち前の大きな声で。


「っ、そこまで大きな声で言わなくても大丈夫なんだが」
「大きな声は私のあいでんてぃてぃですから! あ、今日はどうしてここに?」
「ここ(命蓮寺)への道具の配達にね。それと、君に渡した道具の感想を聞きに来たのさ。
 是非とも、使い心地はどんな感じだったかを教えてくれないかな」


そう言って、店主さんが私の持っている――竹箒を指差す。
その箒の柄には、小さく「香霖堂」の文字が刻まれていた。


「おかげさまで愛用させてもらってます。
 手に馴染んで、掃きやすくて、それでいて頑丈で……もう文句なしですよ!」


香霖堂さんの宣伝と引き換えとして、私が店主さんに修理してほしいと頼んだ物は、いつもいつも使っている私のフェイバリットアイテム――竹箒だった。

店主さんと知り合う少し前の早朝。私が門前の掃除をしているときに、変な巫女二人、白黒魔法使いと刀っ子が命蓮寺に現れた。
その人たちは漂う霊を巡って騒ぎ立てており、このままでは寺の皆さんに迷惑だろうと思った私は、その暴れる四人を止めるべく弾幕勝負をけしかけたのだ。

結果は惨敗。そしてその影響で、持っていた竹箒が見事に折れてしまったのである。
寺の皆さんは気にしなくていいと言ってくださったけれど、弾幕勝負をけしかけたのは他でもない自分。壊した責任は取らなければ。
なので店主さんに、道具の作成ではなく修理をお願いしたというわけなのだ。

そうこうして私は、店主さんに箒を修理していただいたのだけれど……これが驚きの性能を秘めていた。
とても軽く、なのに脆くなくて頑丈。掃き心地も良くて、魔力が籠っているらしくとても私の手に馴染む。
もはや修理ではなく、改良と言ってもいいだろう。少なくとも、私が今まで使ってきた箒の中で群を抜いて素晴らしいものだったのである。
これほどまでに凄いものを作れるとは、もしかしたらよほど凄い人なのかもしれない。店主さん恐るべしだ。


「そうか、喜んでもらえてなによりだ。道具屋冥利に尽きる、といったところかな」
「でも、いいんですか?
 こんなに素敵な物をいただいたのに、御代が店の宣伝だけなんて……」


嬉しそうにしている店主さんを前に、私は少し畏まった。

貰ったこの箒が素晴らしい性能を秘めていることは、この数日間で身をもって理解できた。
けれど、私がしている宣伝に対して、この箒の性能があまりにも勝っているような気がしてならないのである。
単純に考えて、明らかに損得が吊り合っていないのだ。


「ああ、それはだね……」


私の考えを聞いた店主さんは、頭を掻いて苦笑しながら気まずそうに話し出した。


「その箒には、宣伝報酬以外にも君への代金が含まれているんだ」
「報酬以外、ですか?」
「実は、君が言っていた少女たちなんだが……僕の知り合いでね」
「えっ、そうだったんですか!?」


店主さんの告白に、私は当然ながら驚いた。
あの物騒な人たちと知り合いだったとは、世間は狭いものだと認識させられる。
「恥ずかしながらね」と店主さんは言葉を付け加えると、再び話を続ける。


「あまり君に言うべきではないんだが……あの子達のせいで君にかなりの迷惑をかけてしまったみたいだから、それには君への謝罪の分も入っているんだ」
「で、でも、店主さんがそうして下さらなくても……」
「君には随分と商売の力になってもらっているからね。これでも足りないくらいだ。
 箒を修理でなく改造してしまった僕の勝手、と汲んでくれると助かるよ」
「そ、そんなの申し訳なくて出来ないですってば!」


ぶんぶんと首を振り、私は「いいえ」を示す。

店主さんの話を聞いて、大体の経緯は理解できた。
それでも、店主さんがわざわざ謝る必要などは全くないだろう。
この人は優しい。それは、この一週間の間で話をしていれば自然と分かってくるものだった。
だからこそ、この人ばかりが荷を背負わなくてもいいのではないか? と思えてしまう。


「参ったね、こちらとしては気にしなくていいんだが」
「むむむむ……」


だから私は、


「……あ、あのっ!」


なんだか、お人よしなこの人の役に立ちたくて。


「どうしたんだい?」
「それなら一つ、私から提案があるのでしゅがっ!」


気がつけば、そんな言葉をせり出していた。









「霊夢、こりゃ異変だ。直ぐに、直ちに、早急に、迅速に、今すぐ解決しに行こうぜ、行く当てもないけど」
「奇遇ね、私も同じこと思ってたわ。早速行きましょう、行く当てもないけど」


「……」


「おお、そうとなれば早速出発だ。さてと、行先はどうする?」
「んー、今回は本当に謎だから、私の勘がピンともスンとも来てないのよね。
 とりあえず、怪しいと思う妖怪を片っ端からのしていけばそのうち当たるんじゃない?」
「お、いいなそれ。シンプルかつ豪快で私好みだ。
 よし、まずは昔の異変にちょっとでも関わってた奴らからテキトーに行くとするか」
「フフフ、腕が鳴るわー、超鳴るわー」


「待て、そこの物騒二人組。後々君たち自身が異変になりそうだから止めておくんだ」


「止めるなよ香霖! これは一大事なんだ!」
「そうよ! このままじゃ香霖堂が香霖堂で無くなってしまうわ!」


「なんで君たちはそんな風に思ってるんだい……こっちはわけが分からないんだがね」


「だってだって、ここに客が来始めてからもう一週間だぜ?
 こんなん、異変とかそんなちゃちなもんじゃなくて、もはや天変地異とかそういうレベルだろ!」
「霖之助さんもおかしいと思わないの?
 香霖堂に客よ? 香霖堂にお客さんが来てるのよ!?」


「……君たちが、ここは茶飲み場でも休憩所でもないって事を知ってるのか疑問に思えてくるよ」


「休憩所だろ?」「無償の茶飲み場じゃないの?」


「ここまで真っ直ぐ言われると、もう突っ込む気も失せてくるものなのか。勉強になるよ」


「何事も突っ込むのは首だけで十分だぜ。
 よし、霊夢行こうぜ。まずは紅魔館だ!」
「合点承知! さぁ、私のお払い棒が唸るわよ!」


「だから待てと……!」


カランカランッ


「こんにちはー、店主さん! 早速来ちゃいました!」


「……あ?」
「へ?」


「え? ひぃっ!? な、なんであの時の紅白と魔法使いがいるの!?」


「あー……いらっしゃい響子。
 出来れば、今すぐ逃げたほうが懸命だと僕は心から思うんだ」


「て、店主さぁん!?」







「で、なんでヤマビコがここに来たんだ? 退治していいのか、退治していいんだな」
「そうね、退治してもいいのよね? 答えは聞いてないけど」


一人は八角形の道具をスタンバイして、もう一人は大量のお札を両手に持ち始めた。
退治される五秒前、なんて言ってる場合じゃない。紛れもなく命の危機である。

そんな怒気を孕んだ二人に恐怖を覚えた私は、店主さんの座っている椅子の裏へと逃げ込んだ。
そして恐る恐る、椅子の陰から様子を窺う。恐ろしいことこの上ない。


「い、イジメないでね?」
「二人とも止めないか。彼女はここの従業員なる予定なんだ、退治なんてもっての外だよ」
「なっ、従業員!? 香霖、冗談は店の客だけにしてくれよ」
「霖之助さん、今日はエイプリルフールじゃないわよ?」
「……はぁ」


二人の反応を見て、店主さんが深い溜息を吐いた。


「全く……こうなった経緯を説明するしかないか。いいかい、響子?」
「あ、はい。お願いします」
「了解だ。
 さて二人とも、とりあえず落ち着いて聞いてくれ。実はだね……」


そうして私は店主さんに、紅白と魔法使いの二人へ私がここに来ることになった経緯を説明して頂いた。
店主さんが私に宣伝を依頼したこと。私がその宣伝の報酬として箒を作って貰ったということ。


そして私が、「貰いすぎだと思った報酬の分だけ、私を香霖堂で働かせて欲しい」と申し付けた事を。


話を聞いた紅白と魔法使いの二人は、少し首を傾げつつもこれまでの経緯を理解してくれたみたいである。
……確かに、普通に聞くと順序とか損得とか、色々とこんがらがっている。


「香霖の言ってた宣伝ってヤマビコがやってたのか。ああ、あの時の箒が報酬だったってわけだな」
「山全体に宣伝が出来るのなら、それなりに効果があると思ったのさ。
 結果、多くの山の妖怪たちが興味本位で来てくれたんだ。響子の宣伝は大成功だったよ」
「そんな、て、照れちゃいますよ」
「それで、その宣伝の報酬が多過ぎだと思ったからその分こっちで働くって……ややこしいわね。
 霖之助さんも満足してるみたいなんだから、貰えるものは貰っておけばいいじゃないの」
「ご、ごめんなさい。でも、私が得してる感じだったから……」
「……謙虚な妖怪ねぇ。まぁ、別にいいんだけど」


人間二人の反応に、私は怯えつつ話をする。人間相手に畏れをなすのも滑稽だが致し方ない。
なにより、この二人にはどう足掻いても勝てないのだと、以前吹っかけた弾幕勝負で身に染みるほど思い知ったのだ。
正直なところ、ずっと店主さんの後ろに居たいくらいである。なぜか居心地もいいから。


「聖さんも、定期的に命蓮寺に来てくれればそれでいいと仰ってました。
 それと、理由を話したら『お店という環境で、人との繋がりを大切にしてくださいね』と、嬉しそうにしてらしたので」
「あー、共存博愛主義の白蓮らしいわね」
「全くだな。とことん良い人というかなんというか……」
「それに……」


ちらりと、私は目の前の椅子に座っている店主さんを見る。

幽谷響の能力の新しい使い方を見出してくれたのは、紛れもなく店主さんだった。
そんな店主さんのお役に立ちたい、店主さんへ恩を返したかったから。
そして、この人と一緒にいれるのなら……もっと山彦が楽しそうだから。


「ん、なんだい?」
「あ、いえ、なんでもないですっ」


視線に気づいたのか、こちらに振り向いた店主さんと目が合い、なんだかこそばゆくなって私は顔を逸らす。
そんな恥ずかしい言葉、面と向かってなんて言えないけれど。
言えない分は、ここで一生懸命伝えていければいい。


「とまぁ、そういう訳なのさ。二人とも、分かってくれたかい?」
「ええ。ちょっと納得いかないけれど、霖之助さんのせいだということで納得しておくわ」
「私もだ。ちょいともやもやするが、香霖のせいってことで納得しておくぜ」
「この子らは全く……ともかく、これで解決かな。それじゃあ響子。これから数日、宜しく頼むよ」
「あ、はいっ、これから宜しくお願いします!」


私は、ありったけの感謝と、ありったけの笑顔で彼に応える。

宣伝、客寄せ。個人の声量が求められる、大事な仕事の一つだ。
しかし、声ならば幽谷響の専売特許。こんなにピッタシな能力の使い方はそうそうない。

これからも私は、香霖堂さんの宣伝を続けていくだろう。
これほどまでに心踊ることはない。幽谷響として、こうして新しい存在意義を見出す事が出来たのだから。
そして、もっと近づいてみたい、もっと知りたいという人を見つける事も出来たのだから。

もう一度店主さんを見て、私は胸の高鳴りを感じとる。
幽谷響として、幽谷響子としての新しい第二歩目は――ちょっとだけ、希望に溢れている気がした。

テーマ : 同人小説
ジャンル : 小説・文学

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