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太陽の寸法、好意の尺度

だいぶ前に道草さんから、
「おくうが霖之助にブラジャーのいらない服を作ってもらってウフフ」
というネタを頂いたので。

おくうちゃんはこんな子だよなぁ、という妄想をぶち込んでみたりみなかったり。
大好きなキャラのSSは書いていて楽しいですね。鳥っ子ウッフフ!

そしてそして、mayoさんに挿絵を描いて頂きました。ありがとうございます!


登場する方々

霖之助 空 さとり


---------------------------------

「上の下着がいらない服が欲しい?」
「言葉の通りよ、お願いできるかしら?」


いつも通り香霖堂のカウンターの椅子に座っていた霖之助は、珍しい地底からのお客、古明地さとりの言葉を聞いて首を傾げた。
その言葉を発したさとりが、至って真剣な表情で霖之助を見据える。

数十秒前、彼女が香霖堂にやって来たと思った矢先にこの一言である。
……少しばかり、こちらにも考える時間くらい欲しいのだが。


「それは、商品製作の依頼ということでいいのかい?」
「そうなりますね。
 霊夢と魔理沙から聞いたわ。貴方、服のデザインと製作もされてるそうじゃない」


霖之助の問いに答えたさとりが、ジッと第三の目共々こちらに視線を向けてくる。
彼女は覚妖怪。彼女の前で嘘は無意味というわけだ。

まぁ、今は嘘を吐くつもりはさらさらないので困ることではないのだが。


「ああ、僕が霊夢の服のデザインと製作をしているのは間違いない。
 けれども、主に作るのは巫女服だけでね。普通の服の注文ならば、もっと良い作り手が居ると思うんだが……」


霖之助は質問に答えながら、自身と同じく、魔法の森に居を構えているアリス・マーガトロイドのことを思い出していた。

香霖堂はあくまで道具屋であって、服屋ではない。
何の縁か巫女服は作り慣れているが、そこまで普段着を作り慣れているとは言えないのだ。

そんな霖之助よりも、服のミニチュアさえも易々と作る、人形遣いの彼女の方が遥かに向いているだろう。


(もしこの仕事を譲る場合には、彼女から仲介料を貰えばいいか)


地霊殿の主からの依頼だ。報酬はかなりの物を期待してもいいと思われる。
そんなお客を紹介するわけなのだから、その報酬の何割かを貰ってもいいだろう。

霖之助がそんなことを思っていると、考えを読んだのか、さとりが少し呆れながら話しかけてきた。


「そこはがめついのね……ああでも、あの人形遣いさんにはもう話を通したの。
 けれど、『私の作る服とはちょっとお門違いね』って断られちゃったわ」
「お門違い? 彼女がそう言ったのかい?」
「ええ、特殊な技術が絡む服は無理なんだそうよ。
 ドレスのような既存の技術が伴った服は作れるけども、普段の服に新しい技術を組み込むというのは、どうも不安要素が大きすぎるみたい」
「技術……ああ、そういうことか」


さとりの言葉に、霖之助は合点がいった。
人形遣いの作る服といっても、それは普通の服と何一つ変わらない。
魔法で特殊な仕様に出来るかもしれないが、魔力が無くなればそれもただの服に成り下がってしまう。

アリスが技巧を凝らすのは人形に対してであって、服にではない。お門違いだと断ったのはそのためだろう。
となると、特殊な技術を用いた服を作れるという人は、一気に限られてくるわけで。


「察しの通りよ。もう頼れるところがここしかないの」
「……ふむ、なら仕方ないね。時間はかかると思うが、僕がなんとかするしかないか」
「本当? ありがとう、助かるわ」


霖之助の了承に、さとりが笑顔を浮かべた。つられてこちらも笑顔になりそうな笑みだ。

断るという選択肢もあったのだが、せっかくの上客だ。少しでも贔屓にしてもらえる確率が上がるのならばそちらを選びたい。
……そう考えてから、霖之助はハッと気付いた顔をした。


「っと、読まれてしまうんだったか」
「気にしてないわ。店を構える人ならそれくらいは考えるでしょう。
 もちろん、これからの店の選択肢に入れさせて貰いますね」
「感謝するよ。
 それで、『上の下着が必要ない服』だったか。
 単刀直入に聞かせてもらうが、それは『ブラジャーのいらない服』ということでいいのかな」
「ええ、その通りです。おくう用にいくつか作ってもらいたいの。
 あの子、面倒だとか嫌いだとか言って、あんまりブラを着けようとしてくれないのよ。あんなにおっきいのに、あんなにおっきいのに」
「……なるほど、なんとなく想像はつくよ」


さとりの言い方にどこか妬ましさを感じたが、気のせいという事にしておく。
おくうが着けようとしないという話に関しては、自由奔放であどけない彼女の事だ。そんな姿は安易に想像できる。


「あら、何を想像してるんですか。噂の貴方もやっぱり男の人、ということかしら?」


言うなりさとりが口に手を当て、照れるような素振りをしながら霖之助を見てきた。
とても演技している、というのが丸わかりの素振り。……わざとやっているのだろう。


「茶化さないでくれ。
 噂が何かは知らないが、君が言うと何でも本当に聞こえそうだよ」


軽くからかうように聞いて来るさとりに、少し呆れつつ霖之助は言葉を返す。
冗談で言うのは構わないが、どんなことでもさとりが言ってしまえば冗談に聞こえなくなるから恐ろしい。他人が聞いたら勘違いすること間違いなしだ。

霖之助の反応を見て満足したのか、さとりが「本当に噂どおりなのね」と言って居住まいを正した。


「ふふ、ごめんなさい。冗談はここまでにしておくわ。
 では、近々おくうをこちらに送りますので、その際に採寸等をお願いします。
 報酬は服を頂いてからの後払い……でいいかしら?」
「構わないよ。おくうの好みに合う服が出来たときに払ってくれればいいさ。
 オーダーメイドというのは、そういうものだからね」
「助かります。
 では、どうかよろしくお願いしますね」
「ああ。その依頼、確かに引き受けたよ。おくうの分だけでいいんだね? 君の」
「貴方のトラウマは何かしらね?」
「……すまない、失言だった」


彼女の前で、冗談でも下手な事は言わないようにしよう。
そう心に誓った霖之助であった。








「おにーさーん、来たよー!」


数日後、さとりの言った通りにおくうが香霖堂へとやって来た。
ポニーテールを結わえている緑色の大きなリボンと、同じく緑色のフレアスカート。ボタンの周りにレースをあしらった白のブラウス。
そして胸の中心には、太陽神である八咫烏の赤く丸いクレスト。
背中から生える大きな黒翼と、その翼にかかる宇宙を模した神秘的なマントが、胸の八咫烏の赤色を強調しているように見える。

一見するとだいぶ大仰な雰囲気を漂わせているが、彼女自体は天真爛漫。持ち前の明るさは、まさに太陽と言っても差し支えないかもしれない。

霖之助はカウンターの椅子から立ち上がり、おくうの居る入り口へと向かった。


「いらっしゃいおくう。今日の用件は聞かされているかい?」
「うんっ。
 えっと、私の服を作ってくれるんだよね。ブラが必要ないっていうすごい服!」
「ああ、その通りだ。良く覚えていたね」


霖之助がおくうの頭を撫でると、彼女は「えへへ」と気持ちよさそうに目を細めた。


「さてと、ブラが必要ない服ということで、今回君にブラチューブトップという服を作ろうと思っているんだ」
「ぶらちゅーぶとっぷ?」
「外の世界でブラトップと略されて呼ばれている服でね。
 チューブトップという服は知ってるかい? 筒のような服なんだが」
「あ、知ってるかも!
 さとり様が、暑い夜の日の寝るときにそれっぽいのをよく着てるの。あと、こいし様も着てるよ!」


「お揃いだね!」とおくうが嬉しそうに言う。
思いもよらぬ形で、地霊殿の主の私生活を少し知ることとなった。……それはいいとして。


「とりあえず、知っているみたいだね。
 ブラチューブトップ――ブラトップというのは、元のチューブトップやキャミソールに、ブラの一部を取り付けた代物なんだ」
「にゅ? それって結局ブラじゃないの?」
「いや、ブラとはまた違う構造なんだ。
 おくうはブラをつけるのが嫌いなのだろう?」
「うん。胸と背中がぎゅーって締め付けられる感じが窮屈でヤなの」


口をへの字に曲げておくうが言う。着けていた時の感覚を思い出しているのかもしれない。
そのおくうの声音から察するに、彼女は大分ブラを嫌っているのが見受けられる。
そうでもなければ、着けない等という話になるはずもないだろう。


「多くの女性も、そういった理由で着けるのを敬遠……嫌っているみたいでね。
 ブラトップというのは、ブラを着けるのが苦手だったり、嫌いな人のために作られたものらしいんだ」
「そうなんだ、私と一緒かぁ」


霖之助の言葉に、コクコクとおくうが首を縦に振る。
興味深々でこちらの話を聞いてくれようとしているため、とても話しやすい。

そんなおくうを見つつ、霖之助は話を続ける。


「ブラトップには、ブラ特有の背中に回すホックの部分が無くてね。
 つまり、そのブラトップという服を着ればブラを着ける必要がなく、締め付けられる感覚を味わうこともないということなのさ」
「えっ、ぎゅーってならないの? 凄いねそれ!」


目を輝かせながら、おくうが大きく翼をバタつかせた。その翼のはためきにより発生した風が香霖堂内を巡る。
嫌いな物が必要なくなるわけだから、興奮するのも仕方ないのかもしれない。

おくうに説明しながら、霖之助もブラトップという服の構造に感心していた。
既存の商品を、アイデアによっておくうのような新たな客層に受けるよう作り変える商法。
発想の勝利とはこういう物を指すのだろう。是非とも見習いたいものである。


「ねぇ、それってすぐに出来る? 早く着てみたいな」
「……いや、それが制作にあたって、結構時間がかかってしまうんだ」


言いつつ、霖之助は苦笑いした。
あれだけブラトップの性能を豪語していたのにも関わらず、幸先が悪いことこの上ない。


「あれ、そうなの?」
「実はこちらにサンプルが流れ着いてないから、見よう見まねで作らなければならなくてね」


そもそも霖之助がブラトップという服を知ったのは、さとりの依頼を受け、外の世界の資料であるファッション雑誌を読んでいるときだった。
元々存在したチューブトップを進化させたという代物。その概容が、さとりの言っていた「ブラの必要ない服」にちょうど該当していたのである。

しかし外界で人気が高いらしく、幻想郷にはまだ流れていなかったため、仕方なく霖之助は概容と写真を頼りに作る事にしたのだ。
用途と仕組みと形さえ分かっていれば、服を作ることはなんとか出来る。
深く難しい構造ではなかったのでアリスに頼む手もあったのだが、それくらいは出来なければ道具屋として面目が立たないだろう。


「というわけで、完成するまでに日数がかかってしまうんだが大丈夫かい?」
「うーん、仕方ないよね。出来るまで我慢するー」
「すまないね」
「ううん、おにーさんが私のために頑張ってくれてるからいいの」


ニパッとおくうが笑顔になる。
そういってもらえると……とてもありがたい。

再び霖之助がおくうの頭を撫でると、おくうもまた「うにゅ」と気持ちよさそうに目を細めた。


「助かるよ。
 それじゃあ、始めるとしようか。まずは採寸からかな」


そう言って霖之助は、採寸道具を用意するためにカウンターの方へと戻る。

服を作る際に必要なのは、先を見据えることだ。どの事柄にも言えるが、要は指標を定めることが大事なのである。
そのためにも、採寸は第一ステップと言ってもいい。大まかでもサイズを想定して把握しなければ、服を作り始めることすら出来ないのだ。


「採寸……あっ、わかった。
 測るわけだから、服を脱げばいいんだよね!」
「ん?」


霖之助の「採寸」という言葉に対しておくうはそう言うと、霖之助に背を向け、着ていた服をためらいも無く脱ぎ始めた。


「っ! ああいや、今回は服の上からでも構わ」


驚いた霖之助は、そんなおくうを止めるべく声を掛けようとしたが……途中で止めざるを得なかった。
目の前に飛び込んできたのは、すでに上半身の服を脱ぎ終えかかっていたおくうの背中と、漆黒の大きな翼。
……なんて早業なんだろうか。


「にゅ、どうしたの?」
「……いや、なんでもない。まぁ、その方が正確に測れるからね、うん」


服の上から測るよりも、直に測ったほうが正確な値が出るのは言うまでもない。
服による多少の幅の違いは、後でも修正できるため、わざわざ服を脱ぐ必要はないという事を言おうとしたのだが……素直なおくうには意味がなかったのかもしれない。

そして、気になることが一つ。


「……おくう、今日も着けてなかったのかい?」
「あ、えへへ。着けてくるの忘れちゃった。着けてない日のほうが多いかもね」


顔だけをこちらに向け、ふにゃっとおくうが照れたように笑う。
おくうが脱いだ服の中にブラが見当たらなかったため聞いたのだが、どうやら間違ってなかったようだ。
……地霊殿の主が頼みに来るのも頷ける気がする。

本の知識だが、女性はブラ着けていないほうが胸が大きくなる傾向にあるらしい。
これはおそらく、「締めて張る(しめてはる)」という「縛る(しばる)」本来の意味から成長に影響を及ぼすのだと考えられる。


「つまりおくうが……いや、止めておこう」
「? どうしたの?」


霖之助に背中を向けたまま、おくうが首だけ振り向き聞いてくる。
変に思考が飛んでしまっていたので、コホンと咳をして思考を現実に戻す霖之助。


「すまない、ちょっと考え事をね。
 それじゃあ、お空はそのまま前を向いていてくれ。僕が後ろから巻き尺を手渡そう」
「前向いてていいの? おにーさん測りづらくない?」
「さすがに採寸だからといって、女性の裸を見るわけにもいかないよ」


首だけをこちらに向けながら聞いてくるおくうに、霖之助が言葉を返す。
おくうの厚意はありがたいが、女性の採寸は女性同士でするものだろう。服を作る立場とはいえ、男の霖之助がするものではない。
霊夢の場合は気にもしてないのだが……これはこれ、それはそれだ。


「女性……ふふっ」
「どうかしたかい?」
「ううん、なんでもない。ちょっと胸がくすぐったかっただけだよ」
「ふむ? ならいいんだが」


何か気になることがあったのか、おくうが少し照れくさそうに笑った。
こうして何度も、彼女の照れた顔を見れるのは珍しい気もする。

思いつつ霖之助は、霊夢を採寸する際に使っている巻き尺を、カウンター近くの棚から取り出した。


「さてと、まずは上から測っていこう。
 巻き尺を君の背中から前に渡すから、おくうはそれを自分の胸にあてがってくれ。
 出来るだけ、一番張っているところに通すようにね」
「はーい」


おくうの傍に向かった霖之助は、持っていた巻き尺をある程度の長さに伸ばし、それを後ろからおくうへ手渡す。
そしておくうは、受け取った巻き尺をシュルシュルと胸へとあてがい、計測者の霖之助に両端の紐を返した。

これで準備は終わりだ。あとはおくうの背中で目盛をあわせれば、胸の採寸は終了である。


「んしょ、出来たよ」
「ありがとう、完璧だ。
 今から軽く引っ張りながら測るから、巻き尺を前でずれないように抑えててくれ。
 苦しかったら、無理せず言ってくれるかい?」
「ん、わかったー」


おくうからの二つ返事。
全ての準備が整ったので、霖之助は両手に持った巻き尺の紐を、おくうの背中にピッタリと回るように軽く引っ張った。

ブラおくう

「よっと」
「あ、んっ」
「! すまない、キツかったかい?」


おくうから苦しそうな声が漏れたので、霖之助は急いで巻き尺の締りを緩めた。
後ろから測るという行為が初めてだったので、力加減を間違えてしまったか。


「大、丈夫だよ。キツくはないけど……」
「けど?」
「んー、良くわかんなかったけど大丈夫っ」
「そうなのかい? とりあえず、次は今よりキツくならず出来るようやってみるよ」


何故か頬を染めているおくうに疑問を抱きながら、霖之助は再び巻き尺をおくうの背中に宛がうように引っ張る。


「ふっ、ん、あっ」
「っとと、すまない。またやってしまったか」
「あ、違うの、私は大丈夫だから、続けていいよ」
「……早めに終わるようにするよ」


続けていいよとおくうが言っているが、単に我慢してくれているのかもしれない。
それならば、彼女のためにも早く終わらせた方が良い。

そう思った霖之助はすぐに終わらせるため、素早く巻き尺の両端を背中の方へと引っ張る。


「あっ、くぅっ」
「っと……このサイズか」


素早く平行になるように引いて、さらに素早く目盛りを読む。
そして、計測値を書き終えたので、霖之助は巻き尺の紐をすぐに緩めた。


「よし、測り終えたよ」
「はふぅ、うん。
 あははごめんね、変な声出ちゃった」
「いや、気にしていないが、大丈夫だったのかい?」
「うん、私は全然平気だよ。むしろ……」
「むしろ?」
「ううん、なんでもない。とにかくだいじょーぶ」
「君がそう言うのなら……わかった、次は胴回りを測ろうか」


彼女が平気と言うのならば平気なのだろう。無理にああだこうだと勘ぐるのは失礼に値する。
霖之助は巻き尺を伸ばしなおすと、次の部分を測るべく、おくうの背後で膝立ちをした。

胸を測る時と同じようにおくうへ巻き尺を渡し、胴回り、つまりウエストを測る。今回はヒップを測る必要はないためこれが最後だ。
おくうから巻き尺が返ってきたので、霖之助は採寸をし始めた。


「よっと、大丈夫かい?」
「うん。ふふ、ちょっとくすぐったいや」
「それだったら平気かな。こちらもすぐに終わらせるとしよう」


霖之助が測り終えるまでおくうはくすぐったがっていたが、不思議なもので先ほどのような反応は見せなかった。
何事もなく測り終えて紙にサイズを記入し、ウエストの採寸も終了。

何もなくてよかったのだが……何故だろうか、色々と疲れた気もする。


「お疲れ様。これで採寸は終わりだから、服を着て大丈夫だよ。
 さて、次は……服のデザインか」
「んしょっと、どうするの?」


測る際に脱いでいた服を着ながら、おくうが霖之助に尋ねてくる。


「君自身が欲しい服のデザインを言ってくれればいいんだ。そうしたら僕がブラトップを元に、君のデザインに沿った服を作るよ」
「デザイン……うーん、すぐには思いつかないよ」
「む、確かにそうだね……なら、好きな色だけでも構わない。
 その色を元にして、いくつか違うデザインの服を用意しよう」


オーダーメイドで最初に作る服というのは、言ってしまえば試作品のようなものだ。作り終えてからユーザーの評価を取り入れ、また新たに改良を加えていく。
そして最終的に、ユーザーと作り手が満足いく結果となれば、それを何種類か生産すればいい。
好きな色を聞いたのもその過程の一部で、仮でも試作品を完成させることは、生産にとっては大事な工程なのだ。


「好きな色? それだったら、おにーさんの色がいいな」
「僕の色ということは……この服の色ということかい?」
「うんっ。私、前からおにーさんっぽい服を着てみたいなーって思ってたの」


服を着終えたおくうのリクエストを聞いて、霖之助は自身の服を指差した。
それは、いつも霖之助が店内で着ている、青と黒を基調とした特徴的な服。


「構わないが……いいのかい?
 君ならもっと明るい色が似合うと思うんだが」
「うん、それでいいよ。
 私、おにーさんが好きだから、おにーさんとお揃いがいいの」


青と黒は落ち着いた色同士。着こなすのは大抵男性だ。
もしかすると、おくうが着た場合、青と黒の色合いが彼女の明るさを霞ませてしまうのではないか。

――などと考えていた霖之助の杞憂など振り払うかのような笑顔で、真っ直ぐにおくうがそう応えた。


「……そうか、ありがとう。嬉しいよ」
「嬉しいの? それじゃ、私とおにーさんは両思いだね!」
「ん? ああいやおくう、それは意味が違うんじゃないかな」


おくうの言葉に、異を唱える霖之助。
それに対しおくうは、何か違ったのかとでも言いたいかのように、きょとんと首を傾げた。


「え? 好き同士なら両想いだよね?」
「そういう場合もあるが……君の好きと、両想いの好きというのはまた違うと思うよ」


「好き」というのは難しい言葉だ。
家族愛、憧れや尊敬などと言ったように、「好き」にもいろいろと種類がある。
その中でも、おくうの言う「好き」というは、身近な人物や物に対する愛着のようなもののはず。
子供の感情に近いものがあり、彼女の中でお気に召したものは、すべて「好き」の部類になるのだろう。

そう、霖之助は思っていたのだが。


「違わないよ、そっちの好きだよ?」
「……え?」


おくうから返ってきた言葉は、霖之助の予想をはるかに超えるものだった。


「私は、おにーさんがいるからこのお店に来てるし、今日だって、おにーさんだから採寸してもらったの。
 他の人に採寸してもらうなんて、私、絶対嫌だもん。
 おにーさんだからいいの、おにーさんだから触ってほしいの、おにーさんが好きだからここにいるの。
 この気持ちって、お兄さんの言う「両思いの好き」じゃないのかな?」
「……」
「おにーさん?」
「あぁいや……間違ってない、ね」


おくうの思わぬ返事に、霖之助は時を止められたかのように硬直していたが……しばし考え、ゆっくりと答えを出した。
彼女の言っている気持ち。霖之助の知る限りでは、それは紛れも無く「両想いの好き」だったから。


「よかった、違うのかと思っちゃった。私はおにーさんに会うととっても嬉しいもん。
 あ、そうだ、おにーさんはどうなの?」
「僕、かい?」
「うん。さっきのおにーさんの「嬉しい」って、両思いの好きとは違ったんでしょ?
 私はおにーさんが好きだけど、おにーさんはどうなのかなって」


いつもと変わらぬ笑顔で、ストレートにおくうが霖之助に問いかけてくる。

普段のおくうに対して好きか嫌いかで答えるのであれば、好きで間違いはない。
とうに答えなど決まっていたのだが……今のおくうの質問の答えには、「好き」の意味が合わなかった。

ならば、今のおくうの質問にはどう答えるべきか。
はぐらかすという手もあるが、それは彼女には通らないだろう。

おくうが望んでいる答えは非常にシンプルで、「好き」か「嫌い」かの二択である。
ただ、その二つの言葉に秘められた意味は軽くなく、恋愛に関する重要なファクターを占めていて。


「僕は……」


ふむと考え、目の前のおくうを見据える。
目があったおくうは、今か今かと霖之助の答えを待っているかのように、翼をぱたぱたと動かした。


「……そうか、そうだね」


そんなおくうを見て、霖之助は笑みを浮かべた。
微笑ましくもあり、一生懸命で真っ直ぐ。そんな彼女を見ていると、自ずと答えが出てきたから。


「……ああ、僕も好きだよ」
「にゅ、ホント?」
「ここで嘘をついてどうするんだい」
「そっか。えへへ、嬉しいなぁ」


結局、答えに変わりはなかったのだ。

霖之助の言葉を聞いたおくうが、安心したような、とても嬉しそうな顔で笑う。
その笑顔は、霖之助が今まで見た中で一番明るく、一番綺麗な笑顔だった。

そんな彼女だからこそ……こうして好きになっていたのだろう。


「……さて、と。話がずれてしまったね」
「あ、そうだね。どうしよっか?」
「とりあえず、服の色は僕の服と同じ色という案でいくよ。
 今から作り始めたいところだが……僕が疲れてしまったから、一寸休憩にしてもいいかい?」
「休憩? うん、いいよ」
「ありがとう。
 今日はおくうもいるから、休憩がてらお菓子でも作るとしようか」
「えっ、いいの?」
「ああ。満足して貰えるかどうかはわからないがね」
「わーい、食べる食べる! おにーさんのお菓子、美味しいから好きだよ!」


お菓子と聞いて、おくうが本当に嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。……今までの出来事など、どこ吹く風だ。
そんな元気で、どこか幼い彼女の部分を多く見ていたから、彼女の本質を見ることが出来ていなかったのかもしれない。


「あれ、どうかしたの?」


そう考えていた霖之助の視線に気づいたのか、おくうが窺うように聞いてくる。


「っと、なんでもないよ。
 それじゃあ、僕はあらかた道具を片付けておくから、先に台所に行っててくれないかい?」
「うん、わかった。すぐに来てね!」


霖之助の頼みにすぐさま了承を返し、おくうがパタパタと店の奥の台所へと駆けて行く。
そんな彼女の姿を見送ってから……霖之助は一つ息をついた。


「……僕が勘違いしていただけだった、というわけか」


あれほどまでに真っ直ぐな告白など、霖之助は初めてであった。
おくうの霖之助に対する行動。それを霖之助は、子供のじゃれつきの延長線としかとっていなかった。
少しばかり、彼女の言動には幼さが残っているため、どうも子供や妖精と話しているような気になっていたのだ。

しかし、彼女はきちんと自身の気持ちを知っていて、それを霖之助にただただ目一杯ぶつけていたわけであって。


「これは、改めなければいけないな」


あそこまでストレートに気持ちを伝えてもらっていたのだ。本当の彼女を知ることが出来たのだから、今までの対応の仕方では駄目だろう。
そして、霖之助自身も好きと答えを出したのだ。新しい認識をもって、彼女と付き合っていかなければ。

――おくうと言う天真爛漫な鴉の子という認識でなく、霊烏路空という、一人の好きな女性としての認識で。


「おにいさーん、まだー?」
「ああ、今行くよ」


台所から聞こえてくるおくうの声に、霖之助は返事を返す。すぐに来てと言われたからには、長くは待たせていられない。
そう思い霖之助は、道具を手早く片付け、台所に行こうと体の向きを変え……ふと、窓に映った自身の顔に目が止まった。


「……はは、柄でもない」


自身の顔を見て、霖之助は思わず苦笑いを浮かべた。
浮かべたくもなるだろう。自分が、あまりにも珍しい顔をしていたのだから。

まだおくうの服は作り始めたばかりである。これから、彼女がここへ訪れる機会は確実に増えるだろう。
なのに、自分自身がこれとはどういうことか。先が思いやられるなんてものではない。


「何十年ぶりだい、まったく」


自嘲するようにぽつりと呟き、台所へと歩き出しながら、霖之助は自身の顔を覆うように手を被した。

それはまるで、取り繕うかのように。
それはまるで、自分に対して呆れているかのように。


「こんなに、顔が紅くなるなんて」


それはまるで、真っ赤に照れている顔を隠すかのように。

テーマ : 同人小説
ジャンル : 小説・文学

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